今泉佑唯said





 その後 特に会話もないまま、アパートの前についた。


今:わざわざすみません...今日は色々とありがとうございました!


理:気にしないで、勝手にしたことだから。それじゃ。


今:あっ、はい...。また明日...!


理:ん。



そう言って、後ろ向きのまま 手をひらひらと揺らす理佐さんが街灯に照らされていた。











ガチャッ...パチッ


今:ただいま!



部屋に入った私はすぐに電気をつけた。


この行動は何よりも早くしないと気が済まない。


ただいまというよりも先だ。


そしてその理由は自分の過去にある。


それは一年前とか、五年前とかじゃなくて
もっともっと、前の出来事。










...十年前



母:それじゃあ、いい子にしててね。



私の母は、口を開けばそう言っていた。

そう言って毎日どこかに出かけていくんだ。


遊び道具も無く、やることがなかった私は
まだお昼なのに キッチリ と閉め切られたカーテンから
少しだけ顔を覗かせ、外を眺める事しかしていなかった。



そして、そこから見える道路で、幸せそうに手を繋ぎ、見つめ合い、笑い合う。

そんな幸せそうな親子を見つければ、「いいな」と呟き羨ましがった。



けれど、そんな羨ましい光景を見たからこそ
いつも一人ぼっちで居る私の状況は普通じゃないと。


幼い私でも、そう気づけたのだ。



だから、ある日の私は
出かけようとしていた母の服を掴んで、こう聞いたんだ。




「どうしてユイはお家で一人なの?」




すると母は、間も空けずにすぐこう言った。


母:うるさい!!うちはうちで、よそはよそなのよ!



まだ幼かった私。



それでも、そのとき母に返された言葉は
はっきりと脳裏に焼き付き、


それと同時に大きな声で怒られた事への
恐怖 や 悲しみ で、私は大泣きしたんだ。
 



そのとき私が望んだのは、母の大きな手で頭を撫でられること。




だけど実際は、
母の大きな手が、小さな私を突き飛ばしていた...。





...ドンッッ!!