友香さんがくれた本は、その日のうちに読み終えた。
でもとても面白い内容で、何回読んでも飽きないような そんな素敵な本だった。
だから私は、何度も何度も その本を読み返したんだ。
...
月日は流れ、退院の日がやってきた。
事故に遭い 入院してから約半年間をここで過ごした。
暇だと感じることも多かったけど、家で過ごすよりは気楽に過ごせたと思う。
入院生活を振り返りながら荷物をまとめた私は、病院の入口まで移動しようと病室を出た。
途中、お世話になった先生にお礼を言い
友香さんにもお礼を言わなければと思ったのに、沢山いる看護師さんの中に、肝心な友香さんの姿はなかった。
元々体が丈夫な私は、こんなに大きな病院自体初めてで
多分 今後ここに来る可能性は低いと思う。
つまり、友香さんと会えるのは今日が最後かもしれないんだ。
自宅は、ここからすこし離れているためタクシーを呼んでいる。
タクシーを待たせるわけにも行かず、病院の前に停まっているタクシーの前までやって来た。
友香さんに別れも言えず、会えなくなるなんて寂しいや...。
理:半年間楽しかったよ...友香さんありがとう。
大きな病院を見上げて、その中のどこかに居る友香さんにお礼を言った。
ガチャッ
そしてタクシーのドアが開き、私は乗り込もうとした。
友:理佐ちゃん...!
すると、病院の中から私の名前を呼ぶ友香さんが走ってきた。
理:友香さん...?
友:会えてよかった...そうだ、退院おめでとう!
友香さんは嬉しそうにニコッと笑ってそう言ってくれた。
理:ありがとう。友香さんのお陰で楽しかったよ...もう会えないのかな...?
こんな感情になるなら、退院したくないや...。
素直な気持ちを伝えて、別れを惜しむと
フワリと友香さんが私を包むように抱きしめてくれた。
友:理佐ちゃん私も寂しいよ...けど退院はいい事だからね...?
もうここには来ないよう、健康に過ごしてね...。
友香さんの言葉に、涙が零れそうになった。
そして私から離れた友香さんは手を振って
友:元気でね...!
なんて言ったけど、
私の足はなかなかタクシーに向かなかった。
だからか、友香さんは困ったような 可愛い表情になっていた。
私はその表情を見て、更に家になんて帰りたくなくなってしまった。
理:やっぱり、たい...ンッ!?
退院したくないと言おうとしたのに、私の口は友香さんの唇によって塞がれてしまった。
病院の前で、友香さんダメなんじゃ...
なんて一丁前に心配していたけど、私はとても嬉しかった...。
少し経つと友香さんは口を離して、押し込むように私をタクシーの中へと送り込んだ。
バタンッ...。
...ブゥー
ドアが閉まると、すぐにタクシーは進んでしまい
慌ててリアガラスから見た友香さんは、切なそうに微笑んで私に手を振っていた。
退院して、一ヶ月経った。
友香さんと過ごした時間
そしてなによりも、別れのキスが忘れられなかった。
私はそんなふうに友香さんとの思い出を巡らせながら、近くの大通りを歩いていた。
右手には 友香さんから貰った本を握って
ブゥーン...
ス タ ス タ
「おい 姉ちゃん!道路の真ん中に立ってあぶねえぞ!!」
そう声を上げたおじさんに私はニコリと微笑んで
本を握っている右手に、強く力を込めた。
友香さん...
あなたに会うためなら、私は何も怖くないよ
終