本当は教室へ行くつもりだった。


けど教室に戻れば、同じクラスである渡辺梨加さんも戻ってくる事に気付いた。


別に話しかける訳でも、話しかけられる訳でも無いが、
私は同じ教室にいるという事だけで、気まづくなると思ったんだ。


と言っても、行く場所なんてない。


だから私は、フラフラと学校内を歩き回った。


ふと 窓から中庭を眺めてみると、中庭にある大きな木の元に座り、寄りかかっている女の子を見つけた。


いつもの私なら、その子の元へ行こうとは決して思わない。

けどそんな私が、その子の元へ向かおうとした理由は、
自分の体を隠すように、一台のギターを抱えていたからだ。


私はギターが好きだ。

理由は音が好きだからってだけ。


今は授業中。もし先生にばったり会ってしまったら、説教をされるだろうし
きっとまた 反省文も書かされるだろう。


それは慎重に廊下を歩くよりも 面倒なことだからと、出来るだけ周りを気にしながら中庭を目指した。



中庭についた私は、ギターを抱えた女の子の前にしゃがみ込んだ。


起こさないようにギターを外してケースにしまい、視線を戻すと そこで眠っている生徒が今泉さんだった事に気づいた。


ギターをやっていた事にはもちろん驚いたが、

なにより生徒会に入っている今泉さんが、授業をサボって寝ている事に驚いたのだ。


さっき走って生徒会室の前から去った今泉さんはそのままここへ来て寝たのだろう。




今:んー...。


今泉さんがここへ来た理由を考えていた時、今泉さんが目を覚ました。


理:起きたんだ。


今:うん...というか理佐さん!?


今泉さんが突然出した大きな声に驚き、嫌な顔をしていたら申し訳なさそうに謝られた。





先生:誰かいるのかー?サボリは良くないぞ。



すると今度は 今泉さんの声を聞いて来たのか、一人の先生の声が聞こえた。

その声を聞いた今泉さんは声を出さず「ヤバイ」と口を動かしていた。


確かに生徒会に入っている今泉さんが、サボっているなんて知れたら先生は激怒する事だろう。


そう考えれば笑えるし、自業自得だと鼻で笑った。


しかし今泉さんは何を考えたのか、突然私の事を押した。


ガサガサっと音を立てた私は、立ち上がった所を先生に見つかってしまった。


ギロっと今泉さんの方を睨むと、両手を合わせて 今度は「ごめん」と口を動かしていた。


結局、今泉さんのせいで先生に見つかった私は、別室へと連れていかれ
長い説教をくらった後、反省文の紙を渡された。


囮に使われたことはもちろんイラつくが、文句を言いに行くのも面倒だからと、私は大人しく教室に戻った。