ある日、体育館のステージで両手を広げ、どこか一点を見つめる不思議な生徒を見かけた。


好奇心から、何をしているのだろうかと気になったのもあるが、
何よりもその美貌に目を奪われ、彼女を見つめていると、



?:理佐ー何してんの?帰ろーよ。


後ろからだるそうに声をかけてきたのは、幼なじみの志田愛佳。


理:いやー...あの子何してるんだろうって、気になってさ。


愛佳にそう言ってから、視線をステージに立つ彼女に向けると、
愛佳も覗き込むように彼女を見て、


志:あの子かー...。


そう呟きながら、うんうんって愛佳は頷いた。


理:愛佳はあの子が誰だか知ってる?


志:まあね。うちと同じクラスの長濱さんだよ。


理:長濱さんか...私今日初めて見た。


愛佳にそう言いながら、
名前が分かった事だし、話しかけてみようかな。

そう思って、足を体育館に踏み入れようとすると、


志:長濱さんなんか気にすることないよ...。


愛佳はそう言ってから、私の腕をギュッと掴んで何も喋らず引っ張っていく。

腕を掴む愛佳の力はどんどん強くなって、痛いって言っても聞いてくれない。


廊下の途中、我慢出来なくなった私は立ち止まって、愛佳の手を思いっきり振り払った。


理:痛いって言ってんじゃん!


あまり大きい声を出す事は無いから、自分でもその声の大きさに驚いた。


でも愛佳は私以上に驚き、今にも泣きそうな顔で私に謝った。


志:ごめん...。


理:私も大きな声出してごめん。それと今日は先帰ってていいよ、私は体育館に行くから。


愛佳は何か言いたそうにしていたけど、小さく頷いたから、また明日。そう言って私は来た道を早歩きで戻った。


体育館についた私は、さっき入れなかった体育館に足を踏み入れた。


長濱さんはまだ両手を広げて、どこかを見つめてる。


そんな長濱さんに視線を向けながら、私はステージに近づいていく。


長濱さんとの距離は、約一mのところまで来たが、
私には全く気づいてくれなくて、仕方ないからと声をかけた。



理:長濱さん...?


私の声に気づいた長濱さんは、ゆっくりと視線を私に向けた。

そして長濱さんはしゃがんでから、ニコニコと笑って、


長:ねるって呼んでね?


理:えっ...。ね、ねる...?


名前を確認するように呼ぶと、ねるは笑を私向けてから立ち上がって、
また両手を広げ、どこかを見つめ始めた。