私の恋人は、私がどこかへ行こうとすると必ず引き止める。
今だって、授業の始まりを知らせるチャイムが鳴る直前に、
席を立ち上がった私の制服の袖を掴んで、愛佳は私を引き止めた。
志:どこ行くの...?
不安そうに私を見つめる愛佳の頭を優しく撫でて、行く場所を教えた。
理:屋上。
私は次の授業を担当している先生が嫌いだから、サボろうと屋上に行くつもりだったんだ。
すると愛佳は
志:うちも行く...!
愛佳は真面目で、毎日次のテストに向けて勉強をしているのに
私がどこかへ行こうとすれば、授業を放ってまでついてこようとする。
それに愛佳は、一度決めた事を貫く。
だからもう何を言っても無駄なんだ。
すると
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴った。
だからきっと私の嫌いな先生が、もうすぐで入ってくるはず、
今すぐ出なきゃ、サボれなくなるだろう。
そう思って、私の袖を掴んでいた愛佳の手を
掴まれていない方の手でギュッと握って、教室を飛び出した。
愛佳の手を引いて屋上に向かっている間、私たちに会話は無かった。
ただただ無言で屋上へと向かった。
ガチャ
しばらくして私達は屋上に着き、疲れから座り込んでフェンスに寄っかかった。
そしてようやく私達に会話が生まれる。
理:愛佳までサボって、成績落ちるよ?
教室で愛佳の手を振り払わずに握って、ここに連れてきたのは紛れもなく私なのに
「成績落ちるよ」なんて、言ってしまった。
でも愛佳は、
志:成績より理佐が大事なの...
照れながらも私の目を見てそう言ってくれて、ニコッと笑ってくれた。
理:そんな事言われると、毎時間ここに連れてきたくなるんだけど...。
私は、冗談交えてそう言ったのに
愛佳は泣きそうな目で、こう言った。
志:連れて行ってよ...!
だってもし、理佐がここに一人で来て偶然誰かが来ちゃったら
私じゃない誰かと、二人っきりの空間が出来ちゃう...そんなの嫌だもん!
その言葉を聞いて私は、「愛されてる」そう感じた。
でも、愛佳と同じくらい私だって愛佳を愛してるんだよ。
そんな気持ちで愛佳を引き寄せ抱きしめた。
すると愛佳は私の耳元で、
志:キスじゃないんだ...
不満気な声でそう呟いだ。
私たちがいるのは屋上のフェンス側、つまり校庭から上を見上げれば見えるような場所にいる。
それに今校庭では体育の授業をしているクラスが居た。
それを考えると私は少し躊躇してしまった。
でも、私は愛佳が好き。
だから見られるんじゃなくて、見せつけるんだ。
そう思って私は、愛佳の背中に腕を回したまま唇を重ねた。
終