『さっきの、嘘...!!』

渡邉さんの全ての過去を、私が背負うくらいの覚悟を持って
心からそう叫んだ。

教室に響き渡った声は渡邉さんにもちゃんと伝わっていて
驚きながら私の元に歩いて来た。

理:何が嘘なの...?

志:本当は、見たんだ。あれってタバコ、だよね...

恐る恐る慎重に、少し声を抑えながら渡邉さんに聞いた。

理:やっぱり見たんだね...

渡邉さんの返しから、見たことに気付いていたと分かった。

その瞬間、私は逃げたくなった。この教室から走って出ていきたくなった。
それ位の思い空気が流れていたんだ

だけど私はその空気に耐えながら、自分の気持ちを伝えた


志:触れられたくない事なら、深くは聞かない...けど知りたい...!

言っている事は矛盾している。

それに嫌われてしまってもいい。
渡邉さんにとって少しでも力になれたらと、そんな考えだった。

渡邉さんは俯いて考えているように見えた、
もしかしたら私が受け止めてくれないかも、と思っているのかもしれない。

だけどそんな考えは必要は無いんだ。


私は一mほど離れていた距離を縮め、渡邉さんの右手を両手で包むように握った。

理:愛佳...?

渡邉さんは不安そうな声に潤んだ瞳をしていた。

志:大丈夫だよ、私はちゃんと受け止めるから!

渡邉さんの手を強く握りしめながら、言葉に気持ちを込めて伝えた。

すると渡邉さんは、ゆっくりと頷いて口を開いた。

理:ごめんね愛佳...。
夏休み遊んだ時、逃げる場所がなかったって言ったのは嘘なんだ。
本当はタバコに逃げてた、、だけどそんな事は言えなかったんだ。
怖かった、昔みたいに誰もいなくなるのは嫌だったし、やっとまた信じられる友達が出来たのに
失うのが怖かったんだ...

私が握っている渡邉さんの右手は小刻みに震えていた。
その手を私はもう一度、強く握りしめた。

志:うん...。怖いよね、私も怖かったよ...

理:えっ?

志:タバコの事に触れて、渡邉さんに嫌われるのが怖かった。
だけど、嫌われてもいいからちゃんと
渡邉さんと向き合いたいって思ったんだよ?

私は涙がこぼれそうなくらい、ウルウルとしていた渡邉さんの目を見ながら、ニコッと笑った。

理:愛佳...

志:前に言ったでしょ?
私が渡邉さんの中にあるトラウマをなくす第一歩じゃダメって?私あれ本気だから...!
渡邉さんの昔にもちろん私は居ない、だけど今は居るから、
だから次からはタバコに逃げる前に私の所においで?
嫌な事があったら私にぶつけていいから...だからもう逃げないで...!

全部私の本当の気持ち。
すべて伝えて、私は渡邉さんの答えを待った。

少し経つと、渡邉さんは私の目を見てこう答えた。

理:逃げてたって何にも変わらないよね...。本当に愛佳はカッコイイよ、、
愛佳の気持ち言ってくれてありがとう...受け止めてくれてありがとう。

そう言った渡邉さんの表情は嬉しそうに笑って見えた。

私はその表情を見て、
ちゃんと言ってよかったと、心からそう思った。

志:うん...じゃあ帰ろっか!

そう言って私達は並んで教室をでた。



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渡邉理佐side


 愛佳はちゃんと受け止めてくれた。
心配する必要なんてなかったんだって、怖くなってしまった自分に呆れた。

愛佳と並んで歩く帰り道、

私は学校を出てすぐ近くにあるコンビニへと、愛佳に何も言わず駆け寄った。

すると

志:渡邉さん何してるのー?

愛佳が少し声を張って、私にそう言った
それに対して

理:何でもないよー!

そう返して愛佳の元へと戻って行った。

志:なにか捨ててたの?

理:まあちょっとね...!

そんな会話をして欅坂駅へと向かった。



私がコンビニのゴミ箱に捨てたのは、




鞄の中に入れていたタバコだった。




外し続けていた道から、
正しい道へと愛佳が引っ張ってくれた、そんな一日だった。