理:愛佳、何してるの?

さっきまで夢中になって外を眺めていた渡邉さんが私の後ろに立っていた。

そのことに驚きながら、私は焦って携帯を渡邉さんに差し出した

志:いやっ!その、携帯鳴ってたから...!

自分でも呆れるぐらいの怪しい言い方
そんなに焦って言ったら、悪い事してます。って言ってるようなもの

焦っていた私を渡邉さんは冷静に見つめて

理:見た?

そう一言、私に言葉を放った。
そんな渡邉さんに、私は冷静を装って

志:何のこと?

そう言って嘘をついた。
本当は見た、けど見たと言うのが怖かったんだ
触れてはいけない場所へと足を踏み入れてしまうんじゃないかって、

渡邉さんのことをもっと知りたい気持ちはもちろんある。
だけど、嫌われるのが怖かった。
せっかくこんなに距離が縮まったのに、
たった一つの行動でゼロに戻ってしまうなんて、嫌だったんだ。

理:そっか、携帯ありがとう。

渡邉さんは私の手から携帯を受け取って、窓へと戻っていった。
その瞬間から罪悪感に包まれる。

中学生だった渡邉さんには逃げ道がなくて、
もしかしたらそれで、タバコへ逃げたのかもしれない。

けど、まだ吸い続けているなら渡邉さんは今も逃げ続けている、という事だよね。

なら、私が手を差し伸べたい。寄り添いたいんだ


こんなふうに、
嫌われたくない気持ちと、寄り添いたい気持ちが私の中で戦った。




…………………………………
渡邉理佐side

窓から外を眺めていた。
ふと横目で愛佳を見ようとすると、そこに愛佳は居なかった。

後ろを振り向くと私の机の横に愛佳が立っていて、嫌な予感がした。

だから窓から離れて愛佳に聞いた

理:愛佳、何してるの?

志:いやっ!その、携帯鳴ってたから...!

愛佳の言い方は怪しくて、明らかに焦っているのを感じた。
そんな愛佳を見つめて一言、言葉を発した。

理:見た?

もちろんタバコの事。
携帯を入れていた鞄には、タバコも入れていたから愛佳に見たのか聞いたんだ
だけど愛佳は

志:何のこと?

涼し気な顔をしてそう答えた。
だけど、どこかその表情には悲しみや焦り驚きだったりを感じた。

理:そっか、携帯ありがとう。

お礼を言って、愛佳の手から携帯を受け取り窓へと戻った。

携帯を受け取る時、愛佳の顔が歪んだのと暑さからではない汗が出ているのに気がついた。

そして思ったんだ、愛佳はタバコに気づいたと。

なのに愛佳は嘘をついた
その嘘は私への優しさ?それとも自分を守るためについた咄嗟の嘘?

分からなかった。

もしかしたら、この際言ってしまえば楽かもしれない。

朝、愛佳なら受け止めてくれるって決意できたはずだったのに
急に怖くなったんだ、

それに愛佳がタバコの事を知ったのは、私の口からではなく、愛佳自身で見つけてしまった、
それは意外と重要なことなんだ。




やっぱり、私は情けない人間だ。

理:はぁ...

そうやって小さくため息をついた時、思ってもいないことが起きた



『さっきの、嘘...!!』


突然聞こえたその声は、愛佳の心の底から出たような声で
その叫び声が教室中に響いて私に伝わってきた。