志:ほら!着いたよー!

私たちの目の前には沢山の乗り物と沢山の人。
渡邉さんは何故か顔を歪ませ、葵ちゃんは大勢の人を見て口を開けてぼんやりとどこかを見つめていた。

理:思ったより人多い...はぁ

私はぼそっと本音を呟いた渡邉さんとまだボーッとしている葵ちゃんの手を引いてチケット売り場へ向かった。

志:大人三枚でおねがいします!

お姉さんからチケットを受け取って、遊園地の中へと入った。

志:よし!楽しもうね!!まずはジェットコースター!

そう二人に言ったって、なんにも言葉は返ってこない。

志:もしかして渡邉さんと葵ちゃんジェットコースター乗れない?

質問すると二人は小さく頷いた、
私は遊園地と言ったらジェットコースターだと思っていたけど乗れないなら仕方ない...
そう考えて近くにあったコーヒーカップを指さした。

志:うーん、じゃあコーヒーカップ乗ろう!

すると今度は、渡邉さんが笑って頷いたから私達はコーヒーカップに乗ることに決め
少し並んでいる列へ向かった

すぐに乗れる番がやってきて、三人でコーヒーカップに乗り込む

志:コーヒーカップ回そう!!

理:えっ...ちょっと愛佳?

渡邉さんの声を無視して私は、ハンドルを勢いよく回した
音楽が止まりコーヒーカップから降りると、視界がグルグルと回っている

志:ちょちょうしに乗りすぎた...

吐き気に襲われフラフラとベンチに座り込んだ
だけどもちろんそれは私だけでなく、渡邉さんと葵ちゃんも

理:もう無理...

葵:...。

理:愛佳のバカー

何かを呟く渡邉さんの声もハッキリとは聞こえなくて、

志:ごめん...

謝ってから、気持ち悪さが抜けるまでずっと座っていた。
しばらく経つと視界も元通りになって自然と笑みがこぼれた

志:コーヒーカップやばい...!

理:愛佳があんな回すからだよ、、、

志:ごめんってば!

笑う私達とは反対に葵ちゃんは表情一つ変えない

志:葵ちゃんもごめんね?目回ってない?

葵ちゃんの顔を覗き込んでそう聞いたけど、目は合わなくて小さく頷くだけだった。

志:次はーやっぱりメリーゴーランド!

そう言いながら私は立ち上がって、葵ちゃんと渡邉さんの手を握ってメリーゴーランドへと向かった。
列に並んでると

理:私はここで見てるから二人で行ってきて?

渡邉さんはそう言って列から外れていった
その後すぐ、順番が来て私と葵ちゃんは別々の馬にまたがった。

志:やっぱり幾つになっても楽しいわー!

そう呟きながら、たまに見える渡邉さんに手を振っては
まだ笑わない葵ちゃんを見て悲しくなった。

この後も私達はジェットコースター以外の乗り物に乗って存分に遊園地を楽しんだ。
けどまだ葵ちゃんは笑ってない...

時間的にも後は観覧車に乗って終わりだ。

私は不安なまま観覧車乗りこむ


志:渡邉さんと葵ちゃん!今日は楽しかった?

私の前に座る二人に質問すると

理:うん!いい夏の思い出になったよ...!

渡邉さんはそう言ってくれたけど、葵ちゃんは外を眺めてるだけ

志:葵ちゃんはどうだった?大勢の人が居て嫌だったかな...?

不安すぎて心臓がドキドキする...
ダメだったかな、そう思った時ふと葵ちゃんが言葉を発した。

葵:景色綺麗だね...

そう言ってジーッと景色を見ている。
葵ちゃんに言われて私も外を見るとまだ一番上では無かったけど夕日が見えてとても綺麗だった。

綺麗、そう思うと同時に自分が情けなく思えた。

だって、観覧車に乗ってるのに景色を見ようとしていなかったから
葵ちゃんを笑顔にさせそう。そればっかりで自分に呆れた
もちろん、今日一日私自身が楽しんでいなかったわけじゃない...
だけど、なんだか悲しくなった。

結局そのまま観覧車は下に到着して、もう帰らなければ行けない時間。

遊園地を出て駅へと向かう

誰一人話さず変な空気だけが流れる。
来る時はあんなに笑顔が溢れていたはずなのに...。

欅坂駅についてここでバイバイだ。
私は今日一日何をしてたんだろう...そう思って二人に謝った

志:ごめんね...

そんな私を渡邉さんは笑いながら

ペシッ

私のおでこにデコピンをした

志:?

唖然とする私を見て微笑みながら渡邉さんは話し出した。

理:良いんだよ、今日三人で出かけられたこと自体凄いことなんだから!

志:どういうこと?

理:実は葵、いつもなら遊ぶ約束しても本当に行くことなんて無いんだよ!
家族とはでかけるのにそこに幼なじみの子が加わると急に部屋に閉じこもって行かないって叫ぶんだから!
それなのに、今日は来たでしょ?
笑わなかったかもしれないけど、今日一日楽しかったに決まってんじゃん!

なんだ、渡邉さんはそれを知ってたのに教えてくれなかったのか
それくらい教えてくれたっていいじゃん...!

そう思いながら仕返しとばかりに

ペシッ

渡邉さんのおでこにデコピンを返した

理:?

そして

ペシッ

葵ちゃんにも優しくデコピンをした

葵:?

志:バカ姉妹!けど二人と遊べて今日一日めちゃくちゃ楽しかったわ!

そう言いながら、心からの笑がこぼれた気がした

理:バカは余計だよ...

葵ちゃんはそう呟く渡邉さんを見てから私を見つめて

葵:不器用な愛佳ちゃん、、!これからもお姉ちゃんと一緒にいてね...

どこかぎこちなく感じたが、葵ちゃんは笑っていた...
けどすぐに葵ちゃんは私に背を向けて、渡邉さんの手を握りながら歩いていってしまった。

理:愛佳ありがとね...!

そう言う渡邉さんに手を振って私も、家の方面へ行く電車へと向かった。

志:不器用な愛佳ちゃって...、
あれって葵ちゃんは私の気持ちに気づいたってことだよね...


鋭いなー


なんて考えながら電車を待っていたら周りの人が私のことを見ている気がして

ふと気づいた


一人でニヤついていたことに...