しばらくすると葵ちゃんを呼びに行った渡邉さんが部屋へと戻ってきた。
葵ちゃんは部屋の中には入らず廊下からこちらを覗いてる。
やっぱり葵ちゃんはまだ、私が渡邉さんを傷つけると思っているのだろうか

少し話せば警戒心をなくしてくれるかなと思い葵ちゃんに話しかけた。

志:さっきここであった時名前教えるの忘れてたね...!私は志田愛佳って言うんだ!よろしくね?

葵:うん...

志:ほらこっちおいでよ!

手招きをして葵ちゃんを呼ぶけど、葵ちゃんは動かない
こういう言い方は良くないかもしれないけど、この時私の頭の中で思ったことは
『手強い』って事。
家の中じゃ元気って言ったってこれを元気とは言わない
家の中でこれなら、遊園地に行ったってきっと笑顔になってくれない。

私は顔を歪め、どうしたらこっちに来てくれるか悩んでいると渡邉さんが口を開いた。

理:葵?このお姉ちゃんはね、しつこいけどいい人だよ?

私を小馬鹿にする様に渡邉さんは葵ちゃんにそう言った。
これは褒められたのうちに入るのかな?
なんて考えながら私は葵ちゃんに、一つ質問をした。

志:ねえねえ!葵ちゃんはお姉ちゃんのこと好き?

そう質問すると葵ちゃんはすぐ首を縦に振って頷いた

志:じゃあ私と一緒だね?

葵:?

葵ちゃんは意味が分からないのかキョトンとしてる。
だけどそれは葵ちゃんだけじゃなくて渡邉さんも
やっぱり姉妹だな。なんて思って葵ちゃんにまた話しかける

志:私も渡邉さんのこと好きだから葵ちゃんとはライバルだ!

明るくそう言うと葵ちゃんは口を膨らませて渡邉さんに抱きついた

理:葵...!?もう中学二年生でしょ?

抱きつかれた渡邉さんは呆れた口調で葵ちゃんを突き放す

葵:だってこのままじゃお姉ちゃんをしつこい女の人にとられちゃうから!

志:しつこい女の人!?

いい人の方じゃなくて葵ちゃんはしつこいの方を私に当てそう呼んだ
それが少しショックで俯いていると

理:コラ、葵!しつこい女の人傷ついてるでしょ...フフ...

渡邉さんが葵ちゃんに向かって笑いながら怒っている...
だけどこれは怒ってる、じゃなくて完全に笑ってるよ...

志:渡邉姉妹こわい、、、

そう呟いていると渡邉さんはクスクスと笑いながら新しいお茶を持ってくるねと言い部屋を出ていった。
渡邉さんが居ないから部屋の中は私と葵ちゃんの二人きり。
なにか話そうと考えるけど何も浮かばす沈黙が続いた

だけどしばらく経つと葵ちゃんから話しかけてくれた。

葵:お姉ちゃんがさっき言ってたんだけど遊園地行くってほんと...?

志:うん!ホントだよ!私と渡邉さんと葵ちゃんの三人で!どうかな?

葵ちゃんは、うんと言ってくれるだろうか。
こんな事でもドキドキとして自然に両手を合わせ行くと言ってくれることを願った。

すると葵ちゃんは嬉しそうに

葵:うん!行く!

と言ってくれた。

この後戻ってきた渡邉さんと話し合い今週の土曜日、遊園地に行くことに決まった。
その頃には既に18時を過ぎていて時の流れの早さに驚いた。
今度こそは本当に帰らなきゃいけない、次会えるのは5日後、
好きな人に5日も会えないと考えるだけで胸が痛い。

部屋を出て階段を降りると葵ちゃんがキッチンから手を振っているから振り返した。

志:長い時間お邪魔しました!

渡邉さんの顔を見ずにそう言ってドアを開けた。
きっと目を合わせてしまったら帰りたくなくなる。
だから視線を逸らし振り返らずドアを開けたのに、渡邉さんは私に後ろから抱きついてきた

志:どっどうしたの...?!

突然の事にうまく言葉が出す噛んでしまったし
後ろから抱きつかれるなんて、なかなか体験することじゃないから緊張で全身が固まった感覚になった。
そんな私の耳元で渡邉さんが囁く

理:本当に今日はありがとう...葵の事も私の事も真剣に考えてくれて嬉しかった、、。

渡邉さんの顔は見えないけど私の耳元に近づいていた頬から少し熱を感じ、どんな表情をしているのか想像がついた。

志:そんなの当たり前だよ...じゃあ行くね、、

そう呟くと渡邉さんは腕を緩め私から離れて玄関で手を振っていたけど
遠くからでも分かるくらいに渡邉さんの顔は真っ赤だった...


渡邉さんの家を後にし、少し暗くなった道を歩きながら今日のことを振り返る

渡邉さんの壮絶な過去。

一体渡邉さんはどれだけ傷ついたのか私には想像がつかない。
大切な人に裏切られる悲しさは計り知れないだろう。

過去は消えないし変えられない。
だけどその辛い記憶を消せるくらいの存在に私はなりたいと改めて強く感じた一日になった。