不変に正しい組織構造など無い。状況に適しているかどうかだけだ/ドラッカー・チェンジリーダーの条件
「われわれの事業は何か。なんであるべきか」
……ドラッカーのマネジメントにおける、組織の定義を決める際の最も重要な質問である。
『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーのマネジメントを読んだら』(以下もしドラ)だけでなく、本書『チェンジリーダーの条件』にも当然のように登場する文言だ。
『チェンジリーダーの条件』はダイヤモンド社による
「はじめて読むドラッカー」3部作の【マネジメント編】である。
もしドラは『マネジメント:エッセンシャル版』を使用して書かれているが、本書はドラッカーによるマネジメントの大著『現代の経営』を中心に抜粋し、ドラッカー論文やその他の著書から付け加えて作られた本だ。
文言はすべて抜粋であるため、解説書などではない。
『エッセンシャル版マネジメント』では物足りないが、『現代の経営』を読むにはしんどいという方にオススメできる。(『現代の経営』は300ページほどあり、それが上下巻と非常に長い。)
個人的には、マネジメントを学びたいならこの本が一番オススメである。
非常によくまとまっていると思う。
今回の書評だが、ドラッカーのマネジメントをいまさら紹介しても仕方ないし、そもそもドラッカーの文章は無駄がなく簡潔で明快に書かれているので、これ以上噛み砕いて書評しても価値がない。
よって、本書の中で出てきた問い
「組織の正しい構造はひとつか」
だけをとりあげて、考察してみようと思う。
……わずか1ページの内容である。
- チェンジ・リーダーの条件―みずから変化をつくりだせ! (はじめて読むドラッカー (マネジメント編))/P・F. ドラッカー
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万能な組織構造など存在しない
記事のタイトルで結論は述べてしまっているが、「万能かつ最も優秀な組織構造」などは存在しないのだ。にも関わらず、現代の我々はそれを求めていないか?
組織構造の種類は多くある
・トップダウン型
・ボトムアップ型
・フラットな組織
・階層のある組織
・事業部制
・アメーバ経営
…etc
「個性の時代だ!社員の主張を受け入れにくいトップダウンの形式では成長しない!」などと主張されてはみな組織をいじくりまわし、次に「ボトムアップの組織ではスピード感に欠けるから成長しない!」という主張があってまた組織構造を変える。
まるで流行のファッションのように脱ぎ捨ててはまた身につける。
みなおそらく「万能な組織構造がある」という幻想に振り回されているのだろう。
「答え」を求めたがる。
しかし、それは間違いだ。
組織構造においても、所属する社員・市場や業界の特性・時代の流れなど、外部と内部の変化の影響は避けられない。環境の変化は常に起こるのだから、万能など存在しないのだ。
あるのは最適だけ。
そう、環境の変化に応じて最良の形は変化する。
君主論/マキャベリで考察
政治学の古典であり名著である君主論でマキャベリは次のような主張をしている。
ある時代において、慎重に行動して成功した君主がいたが、同じように行動して失敗する君主もいる。慎重とは逆に、血気盛んに行動し暴力に訴えて失敗する君主もいれば、同じように行動して成功する君主もいる。
これは運命なのか?いや、違う。成功を運命に頼るのではなく、運命・時勢に自らの行動様式を適応させる君主が栄えるのだ、と。
君主としての行動様式だけではない。
世の中に絶対はない。万能の方法はない。
状況は一分一秒変化するのだ。焦点を定めるべきは、状況への適合なのだ。
性善説と性悪説で考察
性善説・性悪説というものがある。
人間は生まれながらにして善か。それとも悪なのか。
問題はどちらかではない。おそらく、人間は両方持っているはずなのだ。
ならば方法は一つ。
「現在の直面している状況において、表れる性質はどちらなのか」である。
徳治政治と法治政治で考察
古代中国では
・儒教・孔子による仁・徳の政治(=徳治主義)
・韓非子を中心とした法家の政治(=法治主義)
どちらが正しいかといった思想家の争いがあった。
徳知政治-人徳ある尊敬される人物が治めればみなが命令せずとも自主的に動き国は治まる
これによって内政を安定させた例はいくつもある
法治政治-人間は悪だから法・賞と罰によって統制すべきだ。
これを使って秦王は中国を統一し、始皇帝となった。
どちらが正しいかではないのだ。
組織の構造・状況・時勢、すべてを加味して柔軟に組み合わせて適応させる「最適」を探るのが必要なのである。徳治政治を説いた孔子は実際の政治で理想の国家は作れず、法治政治に傾きすぎた秦の始皇帝はすぐに滅亡する。
まとめ
成功した経営者の本を読むのもいい。
組織構造の手法について学ぶのもかまわない。
ただ、「そのときの状況・時代背景はどうだったのか」「自分の状況・時勢に適合するか」を自分の頭で考えなければならない。何事も鵜呑みにすべきではないのだ。
最後に、今回書評で使用したドラッカーの主張をそのまま引用しておく。
マネジメントの研究は、一九世紀において、政府、常備軍、企業などの大組織が現われたときに始まった。以来、組織の正しい構造は一つであるとの前提に立ってきた。
正しいとされるものは何度か変わった。正しい構造の探究はいまも続いている。
(中略)
しかし、もはや万能の構造などというものは、存在しえないことを認識しなければならない。存在しうるもには、それぞれが特有の強みと弱みをもち、その場面ごとに適用されるべき組織構造である。
(p116)
本一冊のたった1ページに書かれた主張を掘り下げ、別の事象と照らし合わせて考察する。
一風変わった書評でしただ、いかがだったでしょうか?
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