意に反して第三十一高麗王の時代にタイムワープしてしまった美容整形外科医ユ・ウンスだが、順応性に富んだその性格で14世紀の暮らしにも徐々に馴染みはじめ、于達赤テジャン、チェ・ヨンの治療を機に、典医寺でその手腕を振るうようになっていた。
彼女の医学全般の師はチェン・ビン。薬草学の師を務めるのはトギ。
そして、それらを学ぶためには漢字が必要不可欠といわれ、読み書き不能だったその修得にも、さらなる意欲を見せはじめた今日この頃。
ン? 意欲? 無い無い
…師が怖すぎるから、仕方なく、かな
しかし、天界からやってきた医仙という女人は負けず嫌いな一面もあり、薬草学の師、トギから試験だよ、そう云われるとつい…
「試験? 昔から試験て名前のつくものは大得意よ! 受けてたつわ」などと答えてしまうのであった。
☆
「え“〜高麗ニンジン収穫後の加工法の違いを述べよぉ?」
高麗ニンジンは高麗ニンジンよ、などとわけのわからないことを口走った途端、ウンスはあることを思い出し、顔をパッと耀かせる。
「紅参よ! あれも高麗ニンジンでしょう? 試験の時すごーくお世話になったの」
どうやら正解の一つらしいが、ホッとしたのも束の間だ。
あと二つ、とトギは追究の手を緩めない。
「ふたつって…いわれても」
そうだ、紅があるなら…イチかバチかよ
「えーとね、白参っていうのはどうかしら?」
「紅と白、そのおおもとを忘れてはなりませんな」
思わずこぼれた笑いを扇子で隠しながら、チャン・ビンが参戦する。
「麻酔も作りだしちゃう韓先生と、薬草学の生き字引のふたりが相手じゃね。
はい、もう降参です。ね、三つ目はなんなの?」
☆
「フムフム…三種類も加工法があるのね。
畑から掘り出した生の高麗人参を水参。その皮を剥がして乾燥させたものが白参。水参の皮をはがさずに蒸気で蒸して乾燥させたものを紅参ていうんだ」
「三年根以上のものを高麗人参と呼び、四年根を白参、六年根を紅参として調合するのですよ」
「へぇー紅参さまさまね」
その効果・効能は、強精、強壮、鎮痛、補精は無論、火邪、毒素など取り除き、寒邪を追い出し、疲労回復も。女人にとっても大いに効き目があるという。
「非常に優れた補気薬といえるでしょう」
補気薬、か…
うまいこというわね
…そう、試験前の必需品、紅参よ
☆☆☆ ウンス成人の日間近 ☆☆☆
「え〜と顔面神経が通過するのは次のうちどれか、か」
最初に小脳橋角部を通って、顔面神経管トンネルの中を抜けてから、茎乳突孔、側頭骨、で、耳下腺の間を貫いて顔面を動かす表情筋に至るから…
「うん、答えはe.ね。次は…」
間もなく共通試験がある。ウンスはパウチ入りの紅参を片手に握りしめ、借りてきた問題集とにらめっこ中だ。
一に体力二に知力、三四が無くて五に体力
そうよ、頼みの綱の紅参、今回はパウチタイプだけじゃなくて、タブレットや粉末に濃縮エキスだって、ちゃ〜んと用意してるし
オンマが奮発して、参鶏湯パックも入れてくれた
ウン、これだけあれば、絶対に大丈夫…
ところが…
試験当日の朝、どうにも火照りが収まらない。
熱っぽい
なんだかめまいもするような…
どうしよう
今日は共通テストの日で、明日は成人の日だっていうのに
☆☆☆
「…ってな感じで、試験どころじゃなくなっちゃったんです」
「まったく貴女という女人(ひと)は…それが大人のすることですか。
一体どれだけ紅参を服用したんです?」
いつの間にか漢字の師がウンスの隣に立ち、彼女の黒歴史を突いてくる。
「ちょっとっ、盗み聞き?!」
「外まで筒抜けです」
「チェ・ヨンさんっ、云っときますけどね、天界では二十歳なんてまだまだ子供のうちなのよ!」
「こっちでは子が二三人いる歳だ」
「失礼ね! あなただって三十路近いのに一人じゃない」
「いつ命を落とすやもしれぬ職務故、婚姻など…」
「へんっ! こっちだって人命を預かる仕事に就いてたわ」
ああ言えばこう言うふたりを前に、侍医とトギが顔を見合わせる。
これは明らかに戯れだ。
「へ〜今日のお題がこれって…」
「読めぬのでしょう?」
「よ、読めるわよ。これくらい」
「ならば、答えを」
「その前に書き順を教えてよ。書けば思い出すかもしれないし…」
「しからば、貴女の部屋で」
「いいわよ」
そして、ウンスが書いた本日のお題は…
「書けたわ! 丁々発止」
終わり
三連休最終日は成人の日。
学齢方式で大人の仲間入りをされた方、そのご両親に、お祝い申し上げます❤︎
こんな時代だけど、もしかしたらこんな日々だからこそとても意味深く、これからを担う世代の方々が、自由に大空を羽ばける日が、一日も早く訪れることを願ってやみません。