話しはその日の午前に遡る。

 

武閣氏二名の護衛と共に王の牧場に着いてすぐ、医仙が一頭の白馬を見つけると、乗ってみたいと強請ったのだ。

 

「そこいらあたりを一回りしてくるだけだから、大丈夫よ。ね? お願い!」

「…わかりました」

 

ヨンヒが渋々と云った体で答えるが、彼女の手はすでに一頭の馬の手綱を掴んでいる。併走するつもりなのだ。万が一落馬でもされたら…それこそ一大事になるのは火を見るよりも明か。

 

ところが、王宮からここまでノンストップで走り通した直後の馬は、鞍をつけ終えたばかりの白馬に遅れをとった。そうして…

 

 

☆☆☆

 

雌馬特有の滑らかな動きは、風を切るというより、向かい風を後方へと流すかのようだ。なんとも乗り心地がいい。ウンスはこのまま牧場に戻るのが惜しい気がして、敢えて遠回りな路を選ぶ。

 

後二刻も走れば牧場にもどれるという辺りで、ものすごい勢いで雲が空を覆い始める。

 

 

風が強いわ

ひと雨来るかしら

 

雨に濡れたらせっかくの白馬が台無しだ。

ウンスは馬上で唇を噛みしめると、背筋を伸ばし手綱で馬体を詰める。

 

「いい子ね。さあ、思いっきり急ぐわよっ」

 

脚を軽く後ろに引き内股で馬の腹を軽く押しながら合図を送ると、任せて、とでも云うように白馬は駈歩(かけあし)になった。

 

この分なら…きっと余裕で戻れるわ

チュホンのたてがみ、ちゃんと編めてるかしら

心配ね…

 

 

☆☆☆

 

一方…

 

「あの方が、 護衛を振り切ったって…どういうことだっ!」 

「一頭の白馬がいたく気に入って、それがまたものすごい駿馬でな…」

「どこだっ? 何処で見失った?!」

 

到着の予定が少々遅れると報告に来たチェ尚宮に、于達赤テジャンは掴みかかるような勢いだ。トルベはただオロオロと、成り行きを見守るしか術がない。

 

「そうせっつくな。王の牧場近くだよ。すでに戻ってるさ」

 

甥と叔母のやり取りにはかなりの温度差が。トルベは叔母の方に一票を投じてうんうんと頷いてみるものの、テジャンの心配がわからなくもない。なにせ "あの方” は、ことのほか方向音痴なのだから。

 

心配だ…

クソっ! 何かあってからでは取り返しがつかぬというのに

 

チェ・ヨンが兵舎を飛び出そうとすると、叔母の声が追いかける。

 

「おいっ! スリバンも貼り付いてるんだっ…ヨン、行き違いになるぞっ!」

 

 

「て、テジャン? どうしたんで…」

 

後ろ脚で蹴られまいとへっぴり腰でチュホンのたてがみを編んでいたトクマンを、ドスッと弾き飛ばし、チェ・ヨンは愛馬に跨がると「どけっ!」とひと言。

 

主人のただ事ではない様子を察したのか、チュホンは邪魔な于達赤を押し出して、一目散に駈けだしてゆく。

 

間に合ってくれっ!

頼む、チュホンっ!

 

強く吹き始めた風が、あまたの雨雲を呼び起こしたのだろうか。

間もなく激しい雨が降る。

 

そんな予感が、チェ・ヨンとその愛馬を突き動かしていた。

 

 

 

続く

 

 

 

すっかり間が開いてしまいました!!!

オマケに1/2って…<m(__)m>

 

ブックカバーチャレンジで、いろんな方々がお薦めする本の中から、あっこれ持ってる!と、ついつい読みふけっているという…

アップする本も、あれやこれや細部を忘れてて、このままではレビューが書けない、と再読してたりして(ビジュアル本が多いので、見る、といった方が正しいかも?)

 

 

 

こちらも忘れてはおりません!

今日の一枚は…水中世界に住むという、シュライヒのユニコーン/一角獣です(左が♀で右が♂)

 

 

…馬系列だけで何種類持っていることか(爆)

 

「心地よく秘密めいたところ」の著者、鬼才ピーター・S. ビーグルも、「最後のユニコーン」「ユニコーン・ソナタ」などの本を書いていますが、ついついその本を引っ張り出してきて……読んじゃう? かも?? 今夜、エンドレスで???

 

…ということで、チェ尚宮(?)との「ザ・キング」試聴会、いつになったら催されるのでしょうか?!?!叫びドクロ叫び

 

J:近いうちに見ます!