起き抜けの、カリカリにトーストしたパンと、いれたての香り高いコーヒー。働いたあとのキーンと冷えたビール一杯。一日の疲れを洗い流してくれる少々熱めのシャワーミスト。

いくら望んだところで手にすることも口にすることも不可能だ。スイッチオンで当たり前のように出来たことが、何一つ叶わない。

 

ここには電気というものが無いからだ。

 

インフラなんて天界語は忘れちゃった方がいいのかも

ウンス、ここで何かを得るには、身体で勝負

先ずは、起きて身体を動かさないと…

 

よいしょ! という声と共に寝台から起き上がると、バタンと音をたてながら窓を開ける。

木々の合間から美しい朝の光が差し込んできて…

 

 

…きれい

 

昨日まで降り続いた雨がすっかりと止み、まるで嘘のような景色が目に飛び込んでくる。

 

スマホが動けばな…写真撮れたのに

 

自然がもたらす美しさも、裏側に潜んでいる恐ろしい力も、ここではソウルで暮らしていたときとは比べものにならないほど、絶大な力を持っている。

 

…見とれてる場合じゃない 

あいつらと、戦うんだもの

ここで、あの男(ひと)と、力を合わせるの

 

パートナーに…そう 誘ったのはウンスからだ。同じ目的に向かって、お互いを守り合い、戦う仲間になろうといって、握手を交わした。

 

あれは…

「そう! 管仲の交わり(※)よ」

 

何度も衝突をした。すれ違う気持ちを、互いを想い合い、信頼を深めることで、危機を脱してきた。…だからこそ、永遠にも似たこの美しい一瞬を、ウンスは覚えておこうと思う。

 

「おはよう、チェ・ヨン。わたしね、もう迷わないって決めたわ」

 

朝の光を背にして立つ、背の高い男に向かって、ウンスはそう呟いた。

 

 

 

2/2へと続く

 

 

 

※ 管鮑の交わり

十八史略に記された『管鮑之交』

互いに理解し信頼し合った、きわめて親密な関係

 

 

 

ちょっと短めですが、ウンス編を先に。チェ・ヨン編は四方山を挟んでアップしますわヨン ❤︎