m(__)m ひとつ前の記事「小骨…その5」の続きの話しになります m(__)m
「本当に、いいの?」
「武士に、二言はありませぬ。それに(割れたのは)…俺の所為です」
「目の前で倒れるんだもの。敗血症ショックだって、そう思ったら、高麗青磁を持ってることなんか吹き飛んじゃったわ」
イムジャ、チャン・ビンから聞いておりました
貴女は俺に駈け寄ろうとして、下賜されたばかりの象嵌青磁を落とし、割ってしまわれた
その破片を手に、べそをかいていらしたと…
あの後、かけらを集めて金継ぎでもしたら価値が上がるかなって、チラッとさ
でも、きれいさっぱり片付けられちゃってた
…いただいたばかりよ
柄もモノグラムでカッコよかった…だから悔しくて
…とまあ、お二人の間に微妙な温度差はあるものの、晴れてパートナーとなったことでもあるし、テジャンが新たな象嵌青磁を医仙さまに贈る、という約束を交わされたのでした。
そして、お二人の休日が重なったある日のこと、テジャンは高麗磁器を専門に扱うソンサン(松商)のヘンス(行首)の元に、医仙さまをお連れしたのですが…
その喜びようといったら、それはそれはもう大変なものでして…
「スゴい…ヘンスさん、これがぜ〜んぶ高麗青磁?」
「はい、手前の棚が銅系の彩料を使用して磁器を彩った辰砂青磁。その奥が鉄絵で文様を描き釉を掛けた鉄絵青磁。一番奥に置かれているのが…医仙さまご所望の象嵌青磁にございます」
「たくさんあって迷っちゃ…あら?チェ・ヨンさん、これ頂いたのと同じ柄かも!」
医仙さまの目に留まったそれは、確かにチョナから賜った瓶と同じ文様が施されております。
青磁象嵌雲鶴文梅瓶 国宝 第 68号 澗松美術館にあるものと同じ形で同じ柄
「きれいね…見とれちゃうわ。磁器なのに柔らかな感じがして、おまけに品がある」
ほう…なかなか慧眼ですね
釉の艶と象嵌が醸し出す幽玄さが、俺は好きです
「チェ・ヨンさま、医仙さま、お気に召していただけたでしょうか? こちらの梅瓶は象嵌技術の粋を極めたものでして、恐らくは百年、象嵌青磁最盛期に作られたものかと存じます」
「100年?! 100年ていったら…立派なアンティークよ!!!」
「り、りっぱなあんちーくよぉ、とは…一体」
「ヘンス、すまぬが聞き流してくれ」
テジャンが慌てて取りなすと、医仙さまも珍しく空気を察したのか…
「あっ気にしないで。こっちの話なの。ところでヘンスさん、鳥は(白いから)ハクチョウってわかるんだけど、このくにゃくにゃしてる文字が読めなくて…これ、なんて書いてあるの?」
ひ、ひぇ〜文様をよおーくご覧下さい。足に水かきが描かれてはおりませんし、空に浮かぶのは雲と相場が決まっております。て、テジャン固まってますからっ!!!
…雲鶴(ウンカク)を知らぬのか
水鳥ではなく、これは鶴だ
それと、文字ではなく雲を図案化したものだろう
あ”〜もしかしたら、なにかやらかしちゃった?
「あのう医仙さま、恐れながら、これは雲鶴文様と申しまして、鳥類の王者である鶴と大空に浮かぶ雲を図案化したものでございます」
「へっ? 鶴と雲なの? これが? セットってことはよ、ふたつは相性がいいってことかしら?」
ヘンスの説明に、医仙さまがテジャンの方を振り返ってそうおっしゃいます。
すると、テジャンは珍しく医仙さまをじっと見つめたまま…
「富貴栄華を表す組み合わせとされております」
「ふうき、えいが(風紀? 映画?)」
「身分が高く今をときめいて繁栄をもたらす、という意味。
口元の如意頭模様と、裾の蓮華文様は共に吉祥を表す図案。
…イムジャ、しつこいようだが漢字は物事を指し示す道具なのです。知っておいた方が…」
テジャン!ま、拙いですよ!
今ここで漢字の話など…某はどうなっても知りませんから。
……あれれ?
医仙さまったらどこかうれしそうにされて、ついには微笑んでいらっしゃるじゃありませんか。
「わかってる。ただ基礎がなってないから、少し時間がかかりそう。
だからチェ・ヨンさん、あなたと一緒にこうしているの。この鶴と雲みたいにね…」
遅ればせながら、某、今ようやっとわかりました。
医仙さまは、テジャンのことをとても気にかけていらっしゃる。
腹を立てるのも、こうして笑顔を向けるのも、テジャンのお気持ちをご存じだからこそ。
ならば、この鬼剣、(聞こえはしないでしょうが)かしこまって申し上げます。
ここ松都の空で、貴女さまが臆することなく、気持ち良く羽ばたけるよう、テジャンは常に気にかけておいでなのですから。
イムジャ、貴女が天に舞う鶴であるなら、俺は空一面に浮かぶ雲となって守ります
この雲鶴の文様のように、貴女を…
「チェ・ヨンさん、(あなたが雲なら、たっくさん浮かんでる)これに決めたわ」
「(それが)よろしいかと」
THE END.
そして検証画像です ❤︎
ドラマの中でウンスが持ち帰ったのは、梅瓶ではなくて花瓶でした。割れちゃう設定だからコスト削減かな?
さてさて象嵌青磁ですが、成形した生地の表面に文様を彫り込み、白土・赭(あか)土を埋めこんで一度素焼をします。そしてそれに青磁釉をかけて、還元窯で焼成してできあがるのだとか。
窯の温度がコントロール可能な現代でも、(Jの知るかぎり)磁器の歩留まりは9割り程度ですから、この時代は…ひと窯全滅なんて事も普通にあったのではないかと?
その美しさから、世界中の貿易商が欲しがった、という高麗青磁のお話しはこれにてひとまず終わります。
そうそう、窯の場所ですが、全羅南道康津郡大口面沙堂里窯と、全羅北道扶安郡柳川里窯が良品な高麗青磁を産出する窯として双璧を成していたらしいです。
尚、高麗青磁に関しての記述ですが、かなり膨らませている部分が多々あります。間違った箇所やお気づきの点などがありましたら、ご指摘いただけると幸いです。