「漢方って…スゴい」

空になった碗を見つめ、ウンスがぽつりと言う。

 「何故、そう?」

 

チェ・ヨンが聞き返したことに、少々驚いたようだ。

にわかにその顔を耀やかせ、身振り手振りを交えて話し始める。

 

「さっきの話しじゃないけど、同じ植物なのに使う部分によって生薬の名前が違ったりするじゃない? その使い方もね。

 

ひとつ知ると、わからないことがわんさか出てきちゃう。

マンボさんが匙加減っていってたけど、なるほどなって。

あっちにいたときは調合なんてしたこと無かったわ。

アロマオイルくらい? あっ、アロマオイルは精油のことで…」

 

水正菓の甘さと水仙の香りが混じり合い、独特の空気感を醸し出している。

目の前で喋り続ける女人(ひと)と、とても似合いだ。

 

「葉っぱや花や木の実や樹皮から抽出するんだけど、この香りが効果バツグンなの。肉桂は干し柿と相性がよくて、冷えやむくみに効果が見込めるわ。水仙の花はね気持ちを安定させるの。

レイヤードフレグランス…つまり、 香りの重ね着ってことかな。でね…」

 

その口調がなんとも心地よく、チェ・ヨンは腕を組むと目をつむった。

 

 

☆☆☆

 

雪を被った木の実でも鳥が突いているのか…

羽音と交互にバサバサっと雪の落ちる音がする。

 

居眠りをするなど、子供の頃以来のこと。

目を開けて視界に飛び込んできたのは、橙色をした陽の光を浴びたウンスの赤い髪だ。

うっすらと口を開け、小さな寝息をたてている。

 

まるで子供だな

 

魅入ったように顔を近づけると、肉桂の香りが鼻腔をくすぐった。

 

爪?

 

肉桂の粉が僅かに挟まっている。

薬研で砕いた後、乳鉢でさらに細かくしたのだろうか。

 

 

何故、そのように前向きでいられる?

貴女はここを去る女人(ひと)だろう

 

☆ チェ・ヨンの回想 ☆

 

『ちょっと! ニッキって木の根から採るの?』

 

ウンスがいきなり奇声を上げたのは、巳時(AM9:00〜11:00までの間)をまわった頃。チェ・ヨンからを受け取った資料をまじまじと見ていたとき。

 

『今までニッキとシナモンって同じだって信じてたのにぃ。

ニッキは根の部分? もうビックリだわ!  シナモンは、皮から採れるの。乾燥するとくるくる丸まって…ね、…これって樹の品種の違いかな?』

 

 

『しなもんがどういうものかはわかりませんが、桂皮も木の皮だと医書に』

『ケイヒって生薬の?  …もしかしてこういう漢字? 』

 

筆を持つ手で鼻をこすりつつ、ウンスは ”桂皮” と記していった。

おかしな書き順だが、一応形にはなっている。

チェ・ヨンは笑いを堪え頷くと、新たに何事かをスラスラと記しウンスに手渡した。

 

『もう、イヤになるくらい達筆ね。

えーとケイヒの効能は確か…いけん(胃健)、はっかん(発汗)、はつねつ(発汗)、げねつ(解熱)に、あとひとつは……つう?』

『鎮痛(ちんつう)、とここに記載が』

『これ、ちんて読むんだ』

 

鼻の頭に墨をつけしょげかえるその女人(ひと)の顔が何とも可笑しくて、今度こそ吹き出してしまった。

 

 

羽衣を奪われ、天に戻ることが叶わなくなった女人(ひと)

それでも、前を向くことを忘れない女人(ひと)

 

貴女は…強いお方だ

俺など遠く及ばぬ

 

「んんん…」

 

目を覚ましそうな気配に、チェ・ヨンは慌てて飛び退いたが…

 

「あれ? わたし寝ちゃった? あなたと? ここで?」
 

ウンスのその一言に、固まってしまった。


 

 

続く

 

 

 

<m(__)m> 二日前、3分間程度スマホから間違ってupしてしまいました <m(__)m>

 

今日から3月、草木が芽吹く月ですね。

花粉が飛んでます…

 

番外編、なかなかアレに辿り着きません あせる

続きはなる早にて ペンギンペンギンペンギン