西暦1352年2月14日

 

その年のバレンタインデーに、ウンスはイナゴマメを手に入れることが叶わなかった。

勢い込んでいただけに、その落胆ぶりといったら…

 

マンボさんにもトギにも、悪いことしちゃったわ…

やっぱり14世紀の壁は厚かったってことかな

 

肩がガックリと落ちて、ため息までこぼれてくる。

 

「すまねえな。けど医仙さまよ、あんたは諦めちゃいけねえ。(ヨンの奴にも頭下げられちまってるし)何としても探し出してやるからよ!」

 

マンボのゴツくてぶ厚い手が、ウンスに差し出される。

 

「握手ってんだろ? 

 ”叔母上” が自慢げに話してたっけな。契約成立って時はこうするんだってよ」 

 

パートナーになって…チェ・ヨンにそう言ったとき、やはりしっかりと見られていたのだ。

 

「及ばずながら、あたしも手伝うよ」

「俺も! 乗りかかった船だって」

 

マンボ姐とジホが声を上げる。ウンスがイナゴ豆の絵を持ち込んだ日と同じ面子だ。

 

「じゃあ、せっかくなので、天界風に気合を入れちゃいますか! まずはこうして…」

 

四人で円陣を組む。それぞれの手に手を重ねると…

 

「まず、わたしが○○ファイティン!って言ったらマンボさんがオー!

で、ジホ君も思ったことを言ってからファイティン!で、マンボ姐さんが…」

「オー! だね?」

「そう。でね、わたしを飛ばしてマンボさんの○○ファイティン!で…」

「オレがオー!」

「最後はマンボ姐さんのファイティン! で、わたしがオー!」

「あいよ! その○○だけどさ、どんなことでも構わないのかい?」

 

「もちろんです! 

小さな願いや夢ってなかなか口にはしないでしょ? それをあえて言葉にしてみるの。みんなで応援しあえばきっと叶う…そう思うんです。

これは、気合を込めるためのファイティン!とオー!ですから」

 

ウンスの説明を理解した、とばかりに三人が揃って頷いている。

 

「…なんだかわくわくしてきた。じゃあ、わたしからいきますね ❤︎」

 

 

「チョコが無くてもハッピーバレンタインでファイティン!」

「オー!」

「一度でいい。槍でヨンの奴を負かしたいぜファイティン!」

「オー!」

「朝っぱらから浴びるくらい酒が呑みてえなファイティン!」

「オー!」

「天界の料理ってもんを一度食べてみたいよファイティン!」

「オー!」

「ホワイトデーのお返しは期待薄でもウンスファイティン!」

「オー!」

「手始めにウダルチの槍使いをやっつけたいファイティン!」

「オー!」

「来年の今日こそイナゴ豆を間に合わせるぜファイティン!」

「オー!」

「とりゅふなんとかってのを作ってみたいよファイティン!」

「オー!」

 

四人が円陣を組み ”気あい” を入れ合う様は、何とも奇々怪々ではあったが、大きな声を掛け合えば、心も身体もポカポカと暖かくなる。

 

ありがとう…みんな

ウンス、ファイティン! トリュフもどきが作れなくても、あの男(ひと)にとっては屁でもカッパでもない …全然重要なことじゃないんだからさ

 

「ところでさ、医仙さま、ほわいとでーのお返しってなんなんだ?」

思わぬところに、ジホが食い付いてきた。

 

 

☆☆☆

 

それからひと月後@マンボの店

 

色とりどりの菓子を並べた箱を差し出され、于達赤テジャンが目を白黒させている。

 

「これを医仙さまに渡しとくれ。くれぐれもあんたからだって言うんだよ」

「なんで、だよ…」

「不機嫌な顔はやめとくれ。黙って渡しゃあすむことだって」

 

ムリクリ箱を押しつけると、必ず今日中に渡すんだよ、とマンボ姐は念押しを忘れない。

ところが、チェ・ヨンが箱を携え宮中に戻ったところ…

 

 

☆☆☆

 

典医寺の前に行列が出来ている。

それだけなら日常の風景とさほど変わらない。がしかし… 

 

…なんだ、これは

 

並んでいるのは男ばかり。それも明らかに貴族の子息だとわかるいでたち。

そして、手には自分と同じような大きさの包みを携えている。

チェ・ヨンは耳をすまし、辺りの状況を探り始めた。

 

「おい、于達赤テジャンじゃないか?」

「お相手はやはり医仙さまか?」

「それ以外考えられんだろう。本命あらわる、だな」

「婚姻間近だって噂は本当なのだろうか?」

「お主、妹をチェ家に嫁がせるって息巻いてたいただろう?」

「あれはわたしではなくて父上が…そういうお主だって従姉妹がどうのこうのと」

「そんなことより、テジャンの貢ぎ物がなんなのか、お主ら気にならないか?」

 

 貢物だと!

 

「テジャン、遅かったじゃないですか!

お見えにならないかとヒヤヒヤしましたよ」

 

珍しく私服を着たトルベが、にやけた顔で走り寄ってくる。

 

「医仙か? 彼の方が…(また何かされたのか?)」

 

今日は、未婚の男子が想いを寄せた未婚の女子に、愛を告白出来る特別な日なのだという。

 

「皆、医仙さま目当てでして」

「…」

 

王に近しい長官や宰相職の息子たちが勢揃いだ。

小箱を握ったチェ・ヨンの手に、おのずと力がこもった。

 

 

 

 続く

 

 

 

1日遅れましたが、出来れば今日中に後半を ❤︎

 

 

 

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