時空の歪みが何かに干渉して、別の時間への抜け道が開いちゃった

出発点も着地点も同じなのに、100年前にしかたどり着けない

わたし、時間のラビュリントスに迷い込んだのかな

 

イムジャ、ならば俺が(しるべ)になればいい

…貴女に気付いてもらえるような標に

 

姿が見えなくとも、その女人(ひと)の “気” をチェ・ヨンは強く感じた。

 

貴女が新たな薬瓶と小菊を残してくれたように、俺も標すから…

 

チェ・ヨン…あなたを探すわ

逢えるまで、何度でも

 

声のする方に手を伸ばしたが、何かが空を切り、それを最後に意識が途絶えた。
 

 

☆☆☆

 

大荒に三つの高い山があり、それぞれを天山、東極山、離瞀山といい、太陽と月が初めて昇る場所だといわれている。

 

 

そこは、の方角にある連山との方角のちょうど真ん中にある渓谷。

その行きどまりにあって、天山が上に在る。

隠国と呼ばれる身の果ての国は、今まさに、その場所を天山から東極山へ移そうとしていた。

 

 

☆☆☆

 

あなた誰?

クルクルって回転しちゃって、どれだけ身軽なの?

本当に人間かしら

服に棘がたくさんついてる

怪我してるんじゃないの?

 

な、なんだ

さっきから頭の中で声がして、五月蠅いったら

 

もしかして、あなた雷功を放つ神の、息子?

まさかね

違うわよ

なら、どこから降ってきたのかしら

 

姿は見えないが、しきりと声がする。

 

こいつら、なんかの精霊か?

 

ひっつめの坊や、当たってる

ちょっとさ、それよりもこの坊やよ なんで入れたの?

それなんだけど、空からってことは…

まさか、あなたが雷功を放つ、神の息子?

さっきは神の、ってところげ息ついでたけど?

あら、大した違いはないんじゃない?

 

「それ、か、かなり違う。

前のは、神が雷功を放つんだ。

後のは、その息子が雷功を放つってことで、全然意味が違うだろう?」

 

小柄だから、坊やと呼ばれても仕方ないが、雷功と聞けばテマンは黙ってなどいられない。

主は雷功のものスゴイ使い手なのだ。ここはこだわって当然だ、と胸まで張る。

 

そういわれれば、確かにそうね…

どうする?

アリアドネには、どっちで詠ったか覚えてる?

どっちだったかしら…

 

あら、問題解決よ

ほんと…あっちの呪いが解けたみたい

後は、ウンスがどうなったか、ね

 

ウンスって…

い、い、い医仙さまぁ?!?!

「い、せんさまっ ここに、いらっしゃるのかっ???」

 

いせん?

きっと別人よ

ウンスって名のってたもの

 

「ああっもうっ!

わっかんないかな。

ウンスって言う名前の、赤い髪をした女人が医仙さまなんだって!」

 

赤い髪?

ならウンスのことだわ

知り合いなの?

確か、ヨンがどうたらこうたらって言ってなかった?

 

やっぱ医仙さまは…ここに

早いとこなんとかして、テホグンにお伝えしないと…

 

この四年の間、誰よりもチェ・ヨンの傍にいた。

だから知っているのだ。

主がどんなにか日々自分を戒め、そして、希望を失わずにいることを。

 

心配することはありませんよ

ふたりはラビュリントスの糸口を見つけたようです

間もなく逢えるでしょう

 

それと、この迷宮は精霊達と共に場所を移すことになります

あなたは早く結界を張った場所にお戻りなさい

 

誰とも知れない声が聞こえるのと同時に、テマンの身体がフワリと宙に浮く。

そして…

 

「ヒョン、目を開けて下さいよ! ヒョンてば〜」

 

タン・ユンの声で目が覚める。

「…そうわめくなって。頭にひびいちまう」

「ヒョンっ!」

「…見えたぜ。おまえ烽燧台ポンスデから狼煙上げてたろ? テホグンは戻られたか? 爺さんは?」

 

起き上がろうとするテマンの服は破れ、至る所傷だらけだ。

「怪我してるじゃありませんか」

「ああ…こんなもの、痛くも痒くもないって」

 

この様子だと、テホグンがまだだと知れば残って探すと言いだしかねない。

真っ暗な闇に覆われた複雑な地形に迷い込んだら、それこそ迷惑をかける。

 

「諸々確かめるためにも、一度陣に戻りましょう。歩けますか?」

「歩けるに決まってるだろ! ようし、道案内は夜目遠目の利くおいらに任せてくれって」

 

 

☆☆☆

 

 

月を残しながら空が白みはじめてゆく頃、散らばっていた “気” が戻り始め目を覚ます。

その手には藍色に染まった糸の切れ端が握られている。

チェ・ヨンの瞳に歓喜の色が浮かびあがった。

 

 

☆☆☆

 

枢密院副使の予言通り、チェ・ヨンは何事も無かったように、翌朝には陣に戻っていた。

 

途中烽燧台を見た、といくらかうれしそうにタン・ユン達の労をねぎらい、何があったのかを心配するアン・ジェには、気を失ったとだけ話し…

着替えを済ませるとテマンを伴い、ある場所に向かう。

 

 

結跏趺坐を組んで、仙骨を立て背筋を伸ばす。

いつもより深く息を吐いて内気を確かめると、そのままゆっくり目を閉じる。

運気調息の始まりであった。

チェ・ヨンがそうしている間だけ、テマンが護衛につく。

 

天門が開くのを待つ。

期日は三日。そう決めている。

開かなければ一月後に三日。それでもだめならさらにそのひと月後に試すまで。

 

 

 

最終回 2/2 へと続く

 

 

 

こばなしなのに…

なんでこう予定より長くなっちゃうのか…

。゚+(σ´д`。)+゚・クスン…

 

天門が開いたのは何故か、を想像しちゃうと止まらなくなるヘンな習性が有るとか無いとか

え━━━(゚o゚〃)━━━!!!