天門をくぐることは二度と無い。
だからこそ、ウンスはなんとしても両親に伝えたいのだ。
元気でいる
戻ることのない道を選んだ自分を許して、と。
大問題が一つあるのよね
ここは、わたしが生まれて育った国じゃなくなって、簡単に行き来ができない場所になっちゃう
だから開京じゃダメなのよ…なんて、あなたには言いたくない
まずはこの時代の地理をちゃんと知っておくべきね
知ってから、然るべき場所を探さなくちゃ!!!
しかし、夫となった男(ひと)は超がつくほど多忙だ。
相談したくとも…
見送ってから今日で半月
その前はきっかりひと月で、そのまた前は10日…
ダメダメ、数えないって決めたじゃない
…あの男(ひと)が戻ってくるまでに、出来ることをするまでだわ!
☆☆☆
「叔母さま!」
「おや、嫁御じゃないか。どうしたんだ?」
チェ家の屋敷にふたりが移り住んでから半年が過ぎようとしている。
なのに、甥とウンスが枕を並べて眠った(?)のは、延べひと月にも満たない(と思われる)
寂しい思いをさせているのでは、と気にはなっていた。
「彼奴の不在で何か困ったことでも?」
「少しくらいのことじゃへこたれません。実はね、知恵をお借りしたくて伺ったんです」
「…わたしのか」
「はい、叔母さまの」
頼んだのは、高麗の地図を見せてもらうことに加え…
「ここから南に下ったあたりで、ランドマーク、たとえば…お寺とか? ”気” の巡りがいいところがわかると助かるっていうか…」
幾つかの条件を満たす然るべき場所に、石碑でも建てて手紙を埋め、天界の両親に無事を告げたいのだ、と。
「ほう、彼奴が戻るまでに当たりをつけておきたいというのだな?
前もっての準備なら、この叔母がいくらだって協力してやる」
但し、行動を起こすのはチェ・ヨンが戻ってからだ、とチェ尚宮は付け加える。
瞳を輝かせながら嬉しそうに頷いている女人の身に、万が一のことが起こったら…
彼奴はどうなる?
四年という歳月を経て、やっと取り戻したんだ
だからヨンよ、この叔母が、転ばぬ先の杖だろうがなんだろうが、喜んでなってやる
そういうわけで、ウンスとチェ尚宮による ”然るべき場所” 探しが始まった。
☆☆☆
天門があるくらいだから、あそこから探るべきよね
「叔母さま、チョゲジョン(曹渓宗)のお寺で、ポンウンサ(奉恩寺)ってありますか?」
「天界には曹渓宗の寺があるのか?! ほう…驚きだな。して、場所はどの辺りかな?」
甥によれば、 ”未来” という名の今よりも先の世に、天界はあるらしい。
つまり、ウンスの言う ”然るべき” とは、未来に通じる場所のことを指し示すに違いない。
「漢江がこう流れてて…カンナムはくの字の下の方だから…ここらへん?」
川の流れなら、激変してないはずよね
「…どれどれ、修道山のあたりだな。ここ一帯はかつて新羅という国だったんだが…」
「新羅、高句麗、百済の三国、でしょ?」
善徳女王、ドラマで見たもの! もう、ピダムよ、ピダム〜♡
この画像はpintrest からお借りしてます
「おや、どうした? 思い出し笑いなんぞ浮かべて…」
よもや!昔の男とか?! …いやいや、新羅の時代に遡ったとは聞いていないし…
ヨンがいるのにそれはあるまい
「まさか! 顔の筋肉が勝手に動いただけで、全然、なんでもありませんから」
もう、叔母さまったら妙なところがヨンと似ちゃって鋭いわね
ドラマだって説明しても、きっと誤解を招いちゃうだろうし
そんな会話が面白おかしくかわされることに。
「地理誌によればだが、新羅の高僧緑会国師が建てた見性寺という寺が近くにあるはずなんだ」
「キョンソンサ、ですか」
「寺の名に聞き覚えはないか? なら、後もう一つ、江華島はどうだ?」
「カンファドにも?」
そこは、ウンスにとって思い出の地でもある。
「鼎足山の山麓に伝灯寺という寺があってな、忠烈王の第二王妃が玉灯(提灯)を灯して願をかけたとされておる」
「チョンドゥンサって…それ、叔母さま、天界で江華三大寺刹って呼ばれてる一つだわ」
伝灯寺 この画像もpintrest からお借りしてます
「後は、ヨンが戻ってから、二人で訪ねてみることだ」
「百聞は一見にしかず、でしょう?」
ウンスの顔一面に嬉しそうな笑みが広がって、チェ尚宮はついもらい笑いを浮かべてしまった。
転ばぬ先の杖…下の巻へと続く
やっぱり後一話じゃ終われませんでした!!!
ウンスが手紙を埋める場所をあれこれ探しているうちに、地理巡りがおもしろくなっちゃったという ε=ε=ε=ε=ε=ε=