助けた男を肩に抱えるようにして、八十八箇所の行き止まりを、来たときと同じように辿る。

アリアドネの糸を手繰らなくとも、迷いひとつない。

 

 

どのような場所であろうと一度通りさえすれば、チェ・ヨンには俯瞰からの様子が手に取るように見えてくるのだ。

 

かつて、ムン・チフが「第三の目」と称して手放しで喜んだ能力は、戦場(いくさば)のみならず、様々な局面で役に立った。それがこの場所でも生かされている、というわけである。

 

最後の、庭へと続くぶ厚い扉を開く前に、チェ・ヨンは男の青い目を見つめると…

 

「この扉を開ける前に、聞いておきたいことがあります。

あなた方は、いったい誰の怒りをかったのです?」

 

透き通るように青い瞳が、一瞬その色を失い…「十三人目の、仙女…」そう答える。

 

やはり、な

 

いるのは、夢でも現実でもない世界。

何らかの力が働いて、チェ・ヨンはこの異界の地に呼ばれたに違い、ということだ。

 

 

☆☆☆

 

テマンは思いきり高く飛んだ。

 

見えた!

 

隠国への入り口は、天山に近いところにあると、子供の頃聞かされたことがある。

渦を巻くように強い風が舞う一点が見え、身体中の意識を集めると頭から飛び込もうとした。

その時、一筋の白い煙が上がってゆくのが、微かに目の端に映った。

そんなことが出来るのは、タン・ユンしかいない。

 

よしきた!

爺さんを、頼むっ

 

生い茂るいばらの間を落ちてゆきながら、棘が刺さり、血を流しながらも、猿のように手を使い、テマンはストンと着地した。

 

 

☆☆☆

 

一方こちらは、精霊が ”身の果て” と呼んだ場所。

チェ・ヨンの身を案じ、ウンスが精霊達に詰め寄った場面。

 

ウンス落ち着いて!

ヨンていう人が侵入者だって決まったわけじゃないのよ

そうよ! 

 

…あら? ねえ、森がヘンだわ

様子が変わっちゃってる!

 

精霊達が騒ぎ始めると、今度はウンスが落ち着きを取り戻す番。

 

これって…いばらじゃない?

すごい蔓と棘で囲まれちゃってる

 

…100年前とおんなじ状況だわ

そうよ…でも、どうしてこうなるのかしらね?

 

十五の年に、紡錘(つむ)に指を刺され命を落とすことになる

十三人目の年老いた仙女は王女を呪った

残った一人、十二人目の年若い仙女に何が出来るのか

百年後に一人の王子が王女を救うだろう

 

モノとテトラの精霊が、突如詠いだす。

 

もしかしたら…そう! グリム童話よ

 

 

長いこと子を望んでいた王と王妃の間に、珠のような女の子が生まれた。

誕生を祝うめでたい宴に、運命を見通せる12人の仙女達が招待されたという。

しかし、その国には13人の仙女がいた。

 

金の皿が12枚しかないという理由で、13人めの年老いた仙女は招かれなかった。

その事に腹を立てた彼女は、11人の仙女達が贈り物をした後、王女に呪いをかけてしまう。

王女が15になったとき、糸車の紡錘に指を差されて死んでしまう、という呪いを。

 

その怖ろしい運命が告げられた後、まだ贈り物をすませていない年若の仙女が進み出た。

今から100年の後、一人の王子が現れて、必ずや王女を眠りから覚ましてくれるだろう…

そう予言したのだ。

その後、王は国中の紡錘をひとつ残らず焼き捨ててしまった…

 

 

ウンスが子供の頃に読んだ ”いばら姫” の話しとよく似ている。

 

ヘンね…

いつの間にか、ギリシャ神話から今度はグリム童話?

 

どう見ても、目の前の壁をガッシリと覆っているのは間違いなくいばらだ。

 

 

このいばらが、自ら道を作り城の中に入るのを許した相手は…

 

確か、王子一人だけだったはず

王女は彼のキスで目覚めるんだった!

 

未だチェ・ヨンのいる世界に戻れずにいるウンスにとって、身をよじりたくなるような話しだ。

 

100年ていう時を隔てて、王子が現れるのよね

わたしは、その100年を飛び越えて戻らなきゃならない

 

無意識にいばらに近寄ると、そっと指を触れてみる。

いばらがスッとその形を変え、ウンスの目の前に道を作った。

 

ウソっ…

開いちゃった

 

 

 

続く

 

 

 

ギリシャ神話から今度はグリム童話(もしくはペロー版)?!?!

いや〜ん叱らないでやってくださいまし

 

迷宮と紡いだ糸といばらと100年という月日と、あれやこれや絡まりまくってます!!!

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