無名は、その三人の刺客が持つ三つの剣を、彼等を倒した証しとして大王に差し出します
三年前、飛雪と残剣に命を狙われて以来、大王は刺客を恐れ、何者をも百歩以内に近づけたことがありません
長空と名の入った槍の一部が大王に渡され、国法により定められた報償(大王に二十歩まで近づくことが許される)により、無名は王に後二十歩まで近づいたのです
そこから、彼の語りが始まりました
長空は槍の使い手
碁所には秦から送り込まれた七剣士が現れ、彼等をいとも簡単に負かしてゆきました
その彼等が見守る中、無名は剣で戦いを挑み、読みの一手で長空を殺傷したのだと語ります
(長空を演じるのは リアルカンフーマスターの一人であるドニー・イェン
雨の雫と老人が奏でる古琴をバックに繰り広げられる対決は見応えたっぷりで、意識の中で繰り広げられる戦いは、ため息もの。
このツーショット、ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱以来、二度目♡)
次に大王が手にしたのは、飛雪と残月の名が、それぞれ刻まれた二つの剣
国法によれば、飛雪と残剣のどちらかを仕留めた者は、大王に十歩まで近づくことが許される
よって無名は、大王にあと十歩というところまで近づけたのです
その場所で、彼が語ったのは…
飛雪と残剣、そして長空を偽りの三角関係に仕立て上げて、仲違いを仕組んだ、という話し
無名は長空を倒したこと、彼の遺言は飛雪に向けられたものだった、と二人に告げた、というのですそして明日、趙国に攻め入った秦の軍営で、勝負をしようと持ちかけて…
残剣は嫉妬のあまり彼を慕う侍女如月を抱き、飛雪にわざと見せつけます
飛雪は怒りのため、残月を刺殺しました
そして、如月をも手にかけることに
その心の乱れをついて、秦の大軍に囲まれた中での飛雪との戦いに、自分は勝利したのだと
(残剣はトニー・レオン、飛雪はマギー・チャンと、演技派が演じています
残剣の侍女、如月のチャン・ツィイーも好演)
◆◆◆
大王は、その嘘を見破りました
長空は、七剣士を証人に、自らの命を投げ出したのだろう、と
そうやって、暗殺を其方に託し、無名を二十歩の距離まで近づけのだ、と
だが、二十歩では足りず、飛雪を手にかけたに違いない
其方はそうやって十歩まで近づいたのだ、と
実は三年前、残剣と飛雪は三千人の兵を相手に、大王暗殺を仕掛けたことがあり…
大王と剣を交えた残剣は、すんでの所で暗殺を止めていたのです
何故止めたのか
殺せたのに
大王は常々疑問に思っていたのです
だからこそ、無名の話しに矛盾が見いだせたといえましょう
彼が下した推測は…
三人の刺客は、無名が会得した “十歩以内で機能する技” を見込んで剣を託し、自らの命を投げ出したのだ、というもの
「つまり、其方は暗殺者だ」
「何故わかったのです」
「其方から発せられる殺気」
大王は、数多灯した炎の動きで、無名の発する “気” を読んでおりました
「さすがの大王も、ある人物を見くびっておられる」
見破られることを承知の上で、十歩まで近づいた無名の言うある人物とは、残剣のこと
◆◆◆
「確実にツボを貫けば、致命傷にはならない。長空は健在だ」
無名は飛雪と残剣の二人に必殺の技を見せた際、打ち明けておりました
だからこそ無名は二人に、あと十歩を得るため、暗殺の協力を頼んだのです
そしてその十歩のところまで来て、“十歩必殺” の技を持つ無名は、躊躇ってしまった
そのわけは…
長空、飛雪、残剣の中で、最も強い残剣という剣士の存在
覇権を争い、その戦いで民は疲弊し国は荒れ、多くの命が失われてきた
天下統一を果たせるのは、秦王のみ
この言葉と共に、残剣は無名に「天下」という書を地面に残し…
天下のため、秦王の暗殺を断念せよ
個人的な仇にこだわり、大義を見失ってはならぬ
仇討ちのためだけに十年もの間、剣の修行に励んできた無名は、心を揺り動かされたのです
一方大王は、残剣という宿敵が実は自分の一番の理解者であったことを知り、無名に王の剣を与え、背を向けました
十年共に戦ってきた剣に仕留められるなら、悔いは無い、と…
無名はその剣を手にします
ふたりの間にある炎が彼の殺気で揺れました
その時、無名の頼みで残剣が書いた「剣」という書を見つめていた大王は、その文字に込められた残剣が辿り着いた境地を、すべて理解しました
「ここにあるのは剣の道の最高境地。
基本は、人と剣との一致。剣は人、人は剣。手中の草も武器となる。
次に到達するのは、剣を手から捨て、心に持つ境地。
そして最高境地は…
手にも心にも剣の無い境地。大きな心ですべてを包み込む。人を殺さず平和を求める」
手にした剣の柄で大王を突くと、無名は「あなたを殺せば、さらに多くの血が流れる。その平和を求める境地を忘れるな」そう告げて、王の剣をその手から捨てたのでした
(大王を演じたチェン・タオミン、堂々としていて、アクションも出来て素晴らしい俳優さん)
この映画の終焉は、何とも切ないものです
信じて欲しい
飛雪にそう願った残剣は、彼女の手にした剣で
その彼を貫いた剣で飛雪は共に逝きました
王宮中からあがった「殺!」の掛け声に、手を振り命をくだした大王
その大王に未来を託した無名の心に、最後の瞬間に浮かんだ思いはなんだったのか
手にも心にも剣の無い境地は、剣士にとって所詮は絵空事のように思えてなりません
…某が剣だからでしょうか?
🍷🍷🍷
「ちょっと、鬼剣が悄悄しちゃってるみたい。どうしたのかしらね?
あら、映画観ちゃったんだ。HERO? あ〜 J が好きそうな武俠ものだわ」
「秦が国を統一する以前の話しです。それに、亡くなった三剣士の命は決して無駄にはなっていなかった、と俺には思える。七国が一つの国となり平和が訪れたのですから」
「そうか、秦が天下統一したんだった」
「始皇帝は中央集権を確立し、万里の長城を作り、国を守り発展に導いたといわれています。
まあ、漢書には暴君と記されていますが、はたしてどうだったのかは知る由もないので…」
「(く、詳しいわね💦)えっと、一人生き残った長空は、槍をおいたのよね」
「左様。二度と武器を手にすることはありませんでした。
それに当時はまだ秦王だった始皇帝も、無名を手厚く葬ったとある」
「ねえ、あの映画で、真の英雄って誰のことだと思う?」
「英雄とは、振り返って初めて、第三者によって作られるものです。
言い換えれば、物語が終わった後に生まれるものかと」
「なるほど。
ケド、女の立場で言えば、残剣はもっと飛雪と話すべきだったんじゃないかって思えてさ…」
「…(残月は、飛雪とは心も剣も離れない、と)」
「ちょっと、今あなた、男がいちいち説明なんか、って顔してた!
それが悲劇を生んじゃうかもしれないのによ」
「俺は…残剣とは、違います」
そうよね…
あなた、わたしがキ・チョルに攫われたとき、叔母さまに生きてゆけぬっていったんでしょう?
イングムニムには 俺の大事な方を取り戻せるようお力添えをって頼み込んだって…
ちゃ〜んと聞いてるんだから
目の前で思い出し笑いをしているウンスに、チェ・ヨンはよもや “あのこと” が伝わっているのでは…と、肝を冷やしたとか、冷やすはずがなかったとか…
テホグン、人の口に戸は立てられないと申しましょう? by 鬼剣
終わり