「いったじゃない!」

「…いってなどおりません」

「絶対にいったわ!」

 

思い切り声を張り上げても、相手はどこ吹く風と言った体。

憎らしいくらい表情一つ変えないで、その目だけが笑っているように見えるから尚更腹が立つ。

 

いいわよ、そっちがそのつもりなら…

 

「そう。ようくわかったから。(そもそも行き違う運命なのよ)

…もう、あなたには頼まない!!!」

 

嗚咽が込み上げてくるのを、うまく抑えきれない。

この男の所為で泣くのだけは…

いや、涙を見られるのだけは、絶対にごめんだ。

 

ウンスは足早に練兵場を後にしようと歩き始めたが…

ひょろりと背の高いウダルチが、後ろからトルベに押し出され、行く手を阻むように躍りでた。

 

「あ、あの…い、医仙さま」

 

眉根をギュッと寄せ、今にも泣き出しそうな顔をしたトクマンが、弱々しく声をかけてくる。

 

「…なに?」

 

ゲゲゲっ

医仙さまのお綺麗な顔が…無残なことに

 

背中にはトルベの、目のまえには医仙の、そしてその先で仁王立ちするテジャンの、三名からの視線を浴びて、トクマンはゴクリと唾を飲み込んでいた。

 

◆◆◆

 

さて、話を少しだけ戻そう。

 

その日の朝、ウンスの自室にチェ・ヨンからの伝言を持ってトクマンがやって来た。

 

「医仙さま!」

「…トクマンさん」

「どうされたのですか? 竹筒をこのようにたくさん」

「それが、話せば長いんだけど…」

 

 

ウダルチやムガクシ達に配り、大好評を博したお手製の歯磨き粉が事の発端。

いつの間にやら王妃の手に渡り…

いたく気に入られ、三百個の注文が入った。

 

『今年一年の労をねぎらい、家臣達に配りたいのだそうです。

竹の容器は、追ってスリバンに届けさせるので…』

 

ウンスにとって、願ったり叶ったりだ。

 

官僚 → 屋敷(別宅) → 妻 (妾)→ リピート → 大儲け ✨️ 財閥 🌟

 

『おばさま、お任せください! 

一年を締めくくる意味でも、パッケージ…

じゃなくて、包装には特別に気を配りますね!!!』

 

 

「ところが、ほらこの通り…ヒビが入ったり割れちゃったり…よ。

ああ、もうどうしよう…」

 

このところ寒さが増し、昨夜からいくつもの火鉢を持ち込んでいた。

その所為で一気に乾燥が進んだのだ。

 

あの男(ひと)に頼めば…

ダメダメ!

また面倒を背負ってやって来たって顔されちゃう

 

そうじゃなくたって役目で忙しいっていう時にさ、これ以上何か言ったら…

ムリよ、ムリ!
 

医仙さまが、お困りでいらっしゃる…

 

「医仙さま、竹があればいいのですね?」

「納品まで三日しかないの。あったとしても間に合わないわ…」

 

チェ尚宮がマンボに無理をいい、潭陽(タミャン)からわざわざ取り寄せてもらった品なのだ。

 

「このトクマンにお任せください!

三百個分の容器があればいいのですね? 

すぐに実家に出入りをしている庭師を訪ねてみます」

 

 

◆◆◆

 

トクマンを使いにやってから一時が過ぎている。

なのに、待てども暮らせどもその女人(ひと)が来ない。

 

何をしているっ

 

チェ・ヨンは深いため息を吐き、堪えるように目を閉じた。

 

 

 

続く

 

 

 

またもや寄り道です φ(.. )

続きはなる早にて

 

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