…あれから、一年近く

 

王の命で天門をくぐり、攫うよう連れてきた女人(ひと)。

その恩ある女人(ひと)を、更なる王命という鎖に縛られ戻れなくした。

己の命で償うつもりが、こうして生きているどころか、あろうことか惚れたのだ。

 

ヒョンニム、これは…この燭陰(しょくいん)は、天門が開く前兆なのか?

 

 

 

 

☆☆☆

 

それは、大都から新王が王宮に入ってすぐのこと。

護衛の任を解かれたばかりのチェ・ヨンが、書雲観を訪ねてきた。

 

天女に腹を刺されたと聞き及んでいたが、憔悴ししたその顔つきに、ジフンは驚いた。

 

彼は、まるで何かに取り憑かれたように…

 

天門というものが開き、天界に行ったこと。

天門が閉じ、連れてきた医員が戻れなくなったこと。

だから…

 

『ヒョンニム、次に天門が開くのはいつなのか、調べてもらえませんか?』

 

 

 ドラマからキャプってます

 

 

どうしても知る必要がある…そう頭を下げてきた。

 

ヒョンニムと呼ばれたのはいつ以来だろう。

「授時暦捷法立成」の著者、姜保に勝るとも劣らない逸材と呼ばれるジフンは、何とかチェ・ヨンの力になりたいと思った。

 

 

 

その日以降、ジフンの周りには、国を挙げて続けられてきた天文観測の文献がうずたかく積まれることとなる。

まずは、必要な箇所を書き綴ると部屋中に貼った。朝から晩まで呪文のように数字を唱え、狂ったように数式を書き綴った。

 

そうして、ついに太陽黒点が約十一年周期で増減を繰り返している事実を知るに至ったのだ。

その事と燭陰(=オーロラ)の関連も、である。

 

 

☆☆☆

 

雨も止んでるし、何よりもあなたがいる。

…だから外に出て、オーロラが見たい。

そうウンスに強請られた。

 

「足元が滑りますよ」

「平気よ…あなたがいるでしょ?」

 

燭陰のあかりを浴びたその女人(ひと)は、やけに艶めかしい。

口づけでぷくりと膨らんだ唇が濡れたように光り、再び触れたくて堪らなくなる。

 

…とはいうものの、ねだり上手の手にかかったら、頷くしか術はない。

ウンスの乱れた胸元を名残惜しそうに見つめてから、チェ・ヨンは勢いよく起き上がり身なりを整えた。

 

 

「スッゴいわね…

ねえ、夢見てる見たいにきれい」

 

宙を羽ばたくように両手を広げ、キラキラと瞳を輝かせながら、ウンスが空を見上げている。

空から光の束が降り注ぐような幻想的な景色の中、こうしてふたりで歩くのは、悪くなかった。

 

「折角だからさ、ウォルヒさんを起こしてこようか? ね?」

 

ウンスがそう言い出すまでは…

 

「…眠っているだろう」

「あら。こんなにきれいなんだもの。一緒に見たいじゃない?」

 

『ヨン、ひと月だ。一月後に、入り江の村に強い磁場が生じる。

空に燭陰が現れたらそれが合図になる。おそらくは一日二日の間に天門が開くはずだ』

 

ウンスに背を押されるようにして庵に戻りながら、チェ・ヨンはその時のジフンの言葉を思いだしていた。

 

 

 

続く

 

 

 

太陽の表面温度は約6000度といわれていますが、温度がそれよりも低い箇所は、黒い点に見え、その太陽黒点は、太陽活動が活発な時ほど数が増え、約11年の周期で増えたり減ったりを繰り返しているのだとか

 

歴史書に記された黒点やオーロラの記録を分析することで、過去の太陽活動の変遷を知ることができ、さらにはそれに基づいて予見という仮説も立てられちゃう

 

きっと黒点やオーロラの記録が、高麗の書雲観にはあったんだろうな…ということで ♥️

 

太陽活動の周期が約11年で繰り返される、ということが発見されたのは、実は19世紀に入ってから、だそうですヨン