恭愍王五年 晩夏…ふたり再会の日
ウンスとチェ・ヨンが再会を果たしていた、ちょうどその頃…
飯を済ませた高麗の兵達が、ウダルチを先頭に、陣営となって久しい古寺へと向かっていた。
「風が強いな…
おいテマン、お前の得意な軽功で、境内までの階段をひとっ飛びっていうの、見せてくれよ!
…あれ?
彼奴、どこにいったんだ? 」
「そういえば…
さっき、変なことを呟いてたぜ。」
「大方、うまそうな獲物でも追っかけていったんじゃないか?
飯届けにテホグンのところとか? 」
「おい、変なこととはなんだ? 」
最後尾から馬を走らせてきたチュンソクが、言葉の端を耳にして尋ねかける。
「はっ テジャン!
いや…聞き違いかもしれませんが…
天女の羽衣をどうしたこうした、とか。
妙に浮き足立った様子で。なあ? 」
「あっ はい。なんだか舞い上がっているような…」
もしや…彼の方が戻られたのか!!!
…そうであれば、予てからの準備を整えねば。
「プジャン、寄るところを思い出した。ここは任せるぞ。」
トクマンがハイとこたえるのを、馬をかえし背中で聞いた。
ウダルチ テジャンを拝してから三年目…
この地に参戦したのは、そういった立場もあり、最後の最後。
そしてそれは…ある準備のためでもあったのだ。
まずは、テマンをつかまえて確認をせねばな。
先走って、まだ、などということがないよう、慎重に、事を運ばなくては…
☆☆☆
「でね…さっきの話しなんだけど…」
ウンスが話しを始めようとしたまさにその時…
ドンと音がして、卓の上に具だくさんの汁が置かれる。
余りにも見事な食べっぷりに、店主が絆されたのか…
「当店自慢の薬膳汁なんですけどもね。
夜の分がたんとできちまって…
こちらの奥方さまに、是非とも召し上がって頂きたくって…」
見るからに人の良さそうな笑顔を、チェ・ヨンとウンス、かわりばんこに向けてくる。
「…すごい。
鶏肉、入ってる…」
今にもウンスがゴクリと唾を呑む音が聞こえてきそうで、チェ・ヨンは笑いを堪えるのを放棄した。
☆
「ふうー。おいしかった。
具がたっくさんの汁物に、おかずが三品なんてどれくらいぶりかしら。
もう、一口も入らない…」
目の前の女人(ひと)が、目をキラキラと輝かせながら満面の笑みを浮かべている。
貴女のそんな表情が…俺はどれだけ恋しかったか。
「なに?
見つめちゃって…」
顔に穴があいちゃいそう…
その女人(ひと)がほんの少し俯いただけで、魅惑的な大きな目が長いまつげに覆われてしまった。
「イムジャ、顔を上げて…俺を見て。」
ちょっと!
…とろけちゃいそうな声色なんですけど。
それでも、ウンスはチェ・ヨンのどこまでも深い瞳が、見たくてたまらなくなる。
ゆっくりと顔を上げると、その男(ひと)と視線が絡んだ。
薬膳スープを最後の一滴まで飲んじゃったから?
…顔が、火照ってる。
貴女の…陽に煌めいて耀く瞳、すっとした鼻筋、よく動く愛らしい口元、それに、象牙のように滑らかな肌…
一瞬たりとて、目を逸らすのが惜しいのです。
出来るなら、その華奢な手を取って、ずっと離さずに握りしめていたいくらいだ。
☆
共に見目麗しい、いい歳の男女が、赤い顔をして見つめ合ったままでいる。
この戦いの間、離ればなれになってたんだろうな。
今日が再会の日ってわけか…
店主がそんな想像を巡らしていると、美丈夫を絵に描いたような男の方がスッと立ち上がり、天女のように美しい女の手を取った。
仲睦まじく身体を寄せ合い去って行く二人の後姿を眺め、その相好を崩したのは…
過分な支払いに対してなのか。
それとも、その二人にあとわずかで訪れるであろう甘いひとときを予感したからなのか。
はたまたその両方だったのか…
続く…
ポチポチとこの二日間で2行3行と小分け入力中だった「図南〜エピローグ2」ですが…
悲しくも、時間切れになっちゃいました (シ_ _)シ
この続きは…近いうちに必ずや ♡
P.S
無事帰宅しました〜
ウンス鶏肉の入ったスープを施される…
に関しまして。
始祖が仏教を国教とし、殺生なども禁じられ、動物の肉を食べなかったと云われている高麗王朝時代ですが、元との行き来が増すにつれ、王宮や貴族達は肉を使った料理なども口にしていたようで…
そしてこの地は、長らく元の統治下にあったため、恐らくは肉も口にしていたのではないかという設定にしてあります!( ←根拠ナッシング & ウンスに動物性タンパク質を食べさせてあげたかっただけ…ともいう。 )