紫色の手帳に記された数式 それは天門が開く日を示すもの
チェ・ヨンはその日がいつなのかを知り、ウンスは手帳の後半に記された自分への手紙の存在が気になります

互いを想い合いながらも、だからこそ別れの日がやってくるのだと…二人はそう覚悟を決めたのでしょうか?

辛ーい でも甘ーい





外がうす暗くなった頃…ウンスは閉じたままだった目をゆっくりと開いた
息をするのが苦しく身体の中にまだ毒が残っているのだと分かる
少しだけ吹いた風を感じて外へと視線を向けるとチェ・ヨンが部屋の入り口に佇んでいるのが見えた
哀しみと後悔の色を滲ませた眼差しで、ただ、黙ったままウンスを見つめている

あの人…いつからそこにいるの?
呼ぶまで部屋に入らないつもりね
きっとまた自分の所為だって思ってる
顔にそう書いてあるもの

「わたし…死にかけたのね…」

「俺の所為です…
俺があいつを貴女に近づけたから…」

ほらね、やっぱり…
なんだって自分の所為にしちゃう

ウンスはそんなチェ・ヨンをもっと近くに感じたかった

ねえ、チェ・ヨン…
あなた 側に来てっていったらどうするかしら…

「解毒薬…トックングンからもらってきてくれたのね
そばに、きて」

鬼剣を立て掛け、ウンスの横にためらうよう座るチェ・ヨン
その腕にすがって身体を起こそうとするウンスに 何です? と尋ねる

「身体を…起こして」

「…」

「あなたの所為なんでしょう?
言うとおりにして…」

わたしの後ろに座ってと力なく強請るウンスにチェ・ヨンはためらうが、横になっていると胸が苦しい、息をするのも辛いのだと告げられて、もう少しだけ深く、しっかりと自分の胸へともたれさせた

あったかい…
わたしこの人の胸に埋まっちゃうのよね

ウンスの華奢な身体を支えながら、チェ・ヨンは告げるべき事を口にする

「解毒薬は三日に一度、あと六回呑まねばならなぬと、そうあの者が…」

ウンスはむしろ夢で見た光景が気になっており、それををぬぐい去ることがどうしても出来ずにいた…

菊の花が咲き乱れた見たことも無い場所
そしておかしな恰好をしたわたし…

「夢を見たわ…
夢なのかいつかの記憶なのか…
きっと夢…ね
見たこともない家や 見たこともないわたしの姿が…」

「…だから泣いて? 」

チェ・ヨンはウンスのために用意した短刀を渡そうとウンスの部屋を尋ねた時のことを思い出していた
毎夜、うなされているのだ…この人は…
心労が重なっているのだと…チャン・ビンの言葉が頭をよぎる
『医仙は笑顔の裏に隠すのがお上手なので…』

そう…この人は…そういうお方だ

「夢の中であなたを見たの」

その言葉に少しだけ微笑むチェ・ヨン…
ウンスはその柔らかい気配を感じ取った

何でも話し合う、そう約束した…
だからウンス、今この人に話さないといけないの

ウンスはヨンのぬくもりに包まれながら心を決めた

「ねえ、パートナー…わたしね、日付が分かったの
意識を失う前に 天門の開く日が…わかった…」

息をのむ気配がした
まるで時が止まったような静寂が訪れる

「いつです? 」

チェ・ヨンはやっとの事で言葉を口にした



ウンスから語られたその日まで…
後…一月…

胸に抱いた人のぬくもりを確かめるように、チェ・ヨンはウンスの右手を探し出すとしっかりと握りしめる

来るべきその日まで…そのときまでは絶対にこの手を離さない…だから生きろ、生きてくれ…

ヨンはそう願いをこめてウンスの指をなぞっていった


チェ・ヨン…
あなたの暖かい指がわたしの冷えた手を覆って
そこからは哀しいあなたの決意が伝わってくる
…わたし…あなたを護りたい
もし…あの夢がこれから起こることなら…
わたしはあなたを死なせない

だから…手帳の続きを、どうしたって読まなくちゃ

☆☆☆

ウンスへ

この手紙があなたに届きますように
切実な願いと思い出が二人を巡り合せるはず

どうかこの手紙をあの人と一緒にいるうちに読んで
どうか手遅れになる前に





つづく




【小甘ばなし】

ウンスは漢字の練習とばかり半紙に筆で色々な文字を書いています(★漢字に脳内変換してお読みくださいましね)

テジャン
チェ・ヨンさん
ヨン
ヨンア

ねえ、チェ・ヨンさん…どう呼ばれるのが好き?

「…」

教えてよー

「イムジャ、では一つずつ呼んではもらえませんか? 」

「テジャン」

「はい」(貴女の唇が…)

「チェ・ヨンさん」

「はい」(最後に閉じない名前で)

「ヨンア」

「はい」(俺は…貴女に呼ばれたい…)

「…みんな同じ答えじゃ分からないわ」

そう口を尖らせるウンスに、チェ・ヨンはそっと唇を寄せると、その耳元で囁きました

「イムジャ…俺は…そろそろ触れあうだけの口づけから卒業したくなりました…」