今までのあらすじ
100年前の天穴のある場所で、ウンスはハニとその子ウンジュに出会います
この世界でウンスはヨンに「何とか生きていてほしい、わたしが昔の世界であなたを護っている」そう伝えたくて、ヨンが倒れた場所にソウルから再び持ち帰ったアスピリンの入った薬瓶を埋め、小菊を植えたのです
この時代、蒙古の襲撃におびえながら生きていかなければならない人たち…
村人のケガを何人か手当てしたことで、ウンスは赤い髪を持つ曼珠沙華の方、そう呼ばれるようになりました
今日も大きな楠木の下で、ウンスはヨンに呼びかけます
あなたはどうしているのかと…
そんな中、村は蒙古の襲撃を受けてしまい…
戦うウンスにヨンの声が届きます…
侍医院の前で、ウンスは敵将を心ならずも傷つけてしまいますが…




『どうか、お引き取りをお願いいたします』

するとイェグはポリポリとモンゴルカットの頭を掻き、「失礼いたした…」そう言って部屋を後にする
戻ってゆくその足跡は以外と静かだった

ハニは固まってしまったウンスの表情に気づくと、少しはにかんで語り始めた

「ウンス殿…この時代のおなごが、このように話すこと事態まれなこと… そうお思いでしょう?」

ウンスは無言でコクコクと頭を上下に振った

「その通りでございます…
普通なら、ああいった場合はこのように指を口に当てて『困ります~』とか言うのでしょうか? はてさて…よくわかりませぬ…そんなことしたことが無いのです…

ご存じのように、私はホン家の一人娘
二十年ほど前、当時文官だった夫は、父が是非にと無理強いをした結果、私の夫になりました…

当時夫には好いた方がいらしたのです…
それを無理矢理…
知らなかったとは言え、罪な話です…」

愛おしそうな表情で、隣に寝かせたウンジョを見つめている…

「ウンジョは夫とその方の子供…

数年前、父が亡くなると、夫はその方をホン家に招き入れました
私が、そうしろと申しましたの…

わたしは子が産めません
わたしの替わりに子を産んでもらうのも家のためと、そう割り切りました

ウンジョも可愛い盛りですもの…
何の不満もありませんでした

でも…この混乱で、夫はその方と手に手を取り、逃げようとしたのです…

あの夜、二度とウンジョの前に姿をあらわさない…そう夫は言いました
それは…二度とわたしの前に現れない…そういうことです…

家というものは魔物です…

私はホンという家を守ってきたのです
そのために書を紐解くことしかできない夫に代わって、色々なことを取り仕切って参りました
力のあるもの、そうで無いものを見極め、得になるかならぬかの算段もする…

ウンジョ…この子がいなかったら…わたしは鬼女にでもなっていたことでしょう…」

ウンスにはハニの気持ちが痛いほど伝わってくる

『この人は…
家のために婿を迎えた
家のために側女を許した
家のために自分とはつながらない子を愛した

それなのに、家の、国の一大事を前に、夫とその不倫相手は手に手を取ってトンズラしたのだ…

言っても仕方のないこと
でも…

もし、ホン家に嫡子がいたら?
嫡子じゃなくても、あと一人子供がいたら?
いや、ハニが男として生まれていたら?

ハニはこんなにつらい運命を受け入れなくても済んだのかしら…』

ウンスはハニの目を見つめる
やさしく穏やかな顔つきに…今は少し険がある…
まだ苦しいのだろう…
気持ちの整理がつかないのだろう…

…この人は、ウンスを立たせて、引き寄せて、生かしてくれた度量のある人
どんなときでも正しい判断を下せるよう、努力をしてきた人の強さがある

「ハニさん…
ここいら辺りはあなたのシマっ…
ああっ なんて言えばいいのかしら…
そう! 縄張り???
えーと…」

「私の庭…という意味ですか?」

「それよ それ!
その、庭なんでしょう?
だから、そう言えるあなたは大丈夫よ
あなたの第二の人生が始まるの…
あなたはいつだってわたしが聞き慣れない言葉を使っても、意味をちゃーんと理解してくれる!

そんなのあの人だって無理だったわ…」

少し穏やかな表情を取り戻したハニは、ウンスに尋ねた

「あの人とは、あなたがヨン、そう呼ぶ方でしょう?
その方を好いていらっしゃるのですね…
どのような方なのですか?」

ウンスは一つ息を吸う
「チェ・ヨンは…わたしのかたわれのようなもの…
今はそれで許してちょうだい…

ねえ、いつかきっと話すわ
そのときがきたら…ね」

ハニはゆっくりとうなずいた

「さあさ、ウンジョを寝かせてきます
夕餉は食べられますか?
無理にでも少しは…」

「無理しなくてもいただけるわ!」

「後ほどお持ちしますから…」
笑いながらウンジョを抱き上げて戻ってゆく
その後ろ姿は、母と子そのものだ

ああやってヨンの子供を抱き上げることがあるのだろうか…
こんなにも、わたしは…チェ・ヨンが恋しい…
ウンスは泣きそうになるのを必死で堪えた

いつ会えるともしれない…
たとえ会えたとしても…あの人の側にわたし以外の誰かがいるかもしれない…

…でも、ウンス、今は信じるしか術がないのよ…
自分の気持ちを…
あの人の心を…


ヨンとウンス 離ればなれになる前のある夜の会話

『ねぇ、ヨンア…もし、もしもよ…将来子供ができたら…
あなたはどんな父親になるのかしら…』

『子が欲しいですか?』

『あなたに聞いてるのよ?』

『俺は…自分が父親になる…そのようなことを考えたことがなかった…
だが、こうやってあなたを腕に抱いて…心が静かに満ちるのを感じると…』

『感じると?』

『やはり俺には…あなたが一番です
あなたが俺にくれるものなら、それが二人の子であったら…
護ります全力で…
そして愛します…
なあ、イムジャ、愛するであっていますか?』

『さあ…どうかしら…
あん …くすぐったい…ってば…
はい…降参 降参

だからね、ヨンア…わたしもあなたを…すごくすごーく愛してるわ…』