『曇りのち晴れ』蒼樹空 (A面)

君がこの家を出て行ってから2年になる。
君が置き去りにしていったものは、全て処分したはずだったのに、
模様替えする際に一枚のレコードを見つけてしまった。
見つけてしまった。というのは、ある種の後悔があるからだ。
「せっかく忘れかけていたのに・・・。」と、つい独り言が出た。
溜息をひとつ吐く。捨てる前にもう一度だけ聞いてやろうと、
ターンテーブルにレコードをのせた。
ゆっくりと回りだす黒光りしたドーナツ盤を眺めながら、
僕の頭も過去へと45回転しだした。

記憶の溝を掘り起こすように、君との場面が流麗と浮かんでくる。
涙は出ない。しかし、本当の悲しみは、涙が枯れてから始まる。
涙でずぶ濡れの感情では、自己に対する重みばかりになる。
渇いた意識が、とても冷静に悲哀と向き合っていた。
君は今、何をしているだろう。誰と、何処を歩いているだろう。
僕に最後に言った、「嫌いになったわけじゃないからね。」
という言葉の意味を、僕はいまだに理解できないでいる。
やり直したいとか、そういうことではなく、僕だけ君を思い出すのは、
なぜかとても悔しい。だから、君も時々、僕を思い出してほしい。
 
気づけば、レコードのA面が終わり、糸が断ち切られるような
プツ。プツ。という音が部屋に響いていた。
「縁は切れても物残り、さりとて物に罪はなし。」
僕は、ジャケットの埃を払い、一番よく見える場所にレコードをしまった。