真の奇跡とは
これまで記してきたように、
71歳の7月に漂流、12月に心臓停止という二度にわたり
死んでも当然の状況から奇跡的な生還をしたわけだが
――実をいうと、私にとっては
71才まで生きていたということ自体が、正に奇跡なのだ。
生きるか死ぬか?人生最大の岐路に立たされ
「生きたい!」
「何としても生きるぞ!」
と決断したのが37才のときだった。
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私はアルコール依存症だった。
酒が飲める。
酒が強い。
酒酔いの気持ちが良い。
ただそれだけの理由で
18才頃から毎日のように酒を飲み続けていた。
そして27才の若さで急性肝炎で入院した。
病院で1ヶ月酒を飲まないでいると
肝機能は回復して退院。
「何だ、チョロイ」
何の躊躇いもなく即、病院から出たのをいいことに、また飲酒の毎日。
月日の経過と共にますます、
飲酒の回数、酒量が増え続けていった。
28才で結婚し子供が二人生まれたが、酒は止まらない。
依然として呑み続けて身体はガタガタになっていった。
内科入院の回数は数えきれず。
ある日とうとう、
鉄格子のある精神病院行きとなった。
病名は「慢性酒性中毒症」。
(現代はアルコール依存症と云う)
退院してもまた飲酒。
そして一度ならず三度も入退院を繰り返し、
家庭崩壊の危機、離婚寸前、職場復帰危うしと云う状況に陥った。
最初に急性肝炎で入院してから10年になっていた。
その三度目の入院で、やっと目覚めた。
このままでは酒に溺れて死にゆくだけ。
「モウ!コレマデ!」という最大の危機感を以って
「生きたい、このまま朽ち果てたくない」という思いで、
一滴の酒も口にしない「断酒」を決意した。
酒で同じ苦悩をしている仲間と共に
「断酒会」の中で生きる事を決断した。
37才の時だった。
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それ以後、断酒会のリードオフマンとして会活動を果敢に推進して行くなかに
「断酒で甦った命」の歓びを謳歌しながら、
38年目を歩める今日の我が身の存在に、
誰にとか、何にとかではなく、
周囲の総ての人、事柄に対し天に向かって
感謝、感謝の気持ち一杯です。
酒に呑まれ溺れて奈落の底を這いずり廻っていた
人間失格のどうにもならぬ奴(私)が「酒を止めて立ち直る」なんて
自他共に誰一人として期待する分けがなかったのに、見事!それを裏切って
断酒継続ナント34年目の71才に、13時間の漂流救助、
そして5ケ月後に心臓6分間ストップ後の蘇生
と云う二度の奇跡的生還を遂げた事に
周囲全ての人がビックリ仰天!
その中で、最も驚いているのが私、本人自身です。
断酒が出来ていなかったら、
心身共に人間失格となり、
恐らく40才そこそこで死んでも当然の状態になっていた事は明白であるし、
71才で二度の奇跡的生還なんて決して、
決して有り得なかった筈です。そういう意味合いから、
我が人生に於ける真にして最大の奇跡は「断酒!」なのです。
苦悩なくして 危機感なし
危機感なくして 断酒なし
断酒なくして 己なし