シャワーを浴び、タオルを頭にかけたまま冷蔵庫の中のミネラルウォーターを手にとる。
まだ濡れたままの前髪から一つの雫が滴り落ちる。
リビングに向かい、テレビをつけようとリモコンに手をかけた時。
チェストの上に置かれた小さな箱が目に入る。
…
リモコンを置き、チェストに近寄る。
きっとこれは恋なんだろうな…そんな気持ちに気付いたのは、あなたの隣に彼女がいたとき。
この気持ちの始まりはきっと、春のあの出会い。
淳一の面影をあなたに重ねて。
どことなく似ている仕草や佇まい、振る舞い。
でもね。
淳一のことを話せたあの日から…あなたは私の中で…1人の特別な人になった。
あなたと他愛もない話をしたり
未来の夢について語り合ったり
ふと隣で笑った笑顔に胸がしめつけられたり
もうないと思っていた胸の高鳴り。
あなたも同じ想いだったら…?
こんなに側にいてくれるのはもしかして…。
なんて、乙女な気持ちを抱いたりして。
でもやっぱり…
そんなことはあるわけがない。
あなたには彼女がいるから。
この気持ちは伝えちゃいけない。
そう決めたの。
なのに…
小さなオルゴール。隣には押し花が施されたしおり。
メッセージカードにはひとこと…
「Happy Birthday いつも君が笑顔でいられますように」
しおりを手にとり見つめる実彩子。
実 ねぇ、この花なんていうの?
隆 あぁ、リナリアっていうんだって。
実 へ〜。にっしー詳しいの?
隆 …いや、全然だよ。店員さんに聞いただけ(笑)他にも色とか種類はあったんだけどね…。宇野ちゃん、紫好きでしょ?
実 うん(笑)可愛い花…嬉しい。ありがと。
隆 よかった…
実 リナリア…
パソコンを開き、キーボードを打つ。
実 リナリア…別名ヒメキンギョソウ。1年草。開花時期は4〜6月…。花言葉は…
実 …
隆 …宇野ちゃんなんだよ…
実 え?なにか言っ…
トンッ
実 へっ?…にっ……んんっ
塞がれる唇から漏れる吐息。
隆 いいかげん…気づいてよ…
頬を何か伝うもの。
髪から落ちてきた雫だと思ったのに。
あんなに泣いたのに…
どれだけ泣いたら枯れてくれるのかな。
この涙も…あなたへの想いも…
あなたの口付けは
とても熱くて、優しくて
全身で好きって伝えてくれてるみたいだった。
いけないことなのに…
あのままあなたの腕に
ずっと包まれていたかったよ…。
パソコンに映る文字。
花言葉
「この恋に気づいて」
あなたが贈ってくれた想い。
嬉しくて…でも悲しくて。
本当は私があなたに贈りたかった。
「この恋に気づいて」って…
