◆江藤淳『アメリカと私』文春文庫、1991年3月

プリンストン大学での研究生活をつづった「アメリカと私」は名作だと思う。留学体験記を読むのは非常に面白い。

冒頭、アメリカに到着早々に体調を崩した妻を医者に診せるまでの騒動からはじまる。この騒動を通じて、江藤はアメリカ社会の「適者生存の論理」を理解し、そうしていつのまにかアメリカの内側へと入り込んでいた。

こうして、江藤のアメリカでの生活がはじまる。近所つきあいから、大学の同僚や学生たちとの交流、アメリカ社会のこと(ケネディ暗殺事件も触れられている)、こうした内容が語られる。やがて、帰国が近づくにつれて、2年間すごしたこの大学町を好きになり始めていた。江藤のアメリカ生活は成功と言っても良いだろう。学会でのスピーチも評価されたし、しかも代役とはいえ日本文学の教師として大学の教壇にも立つことができたのだから。そのまま、アメリカに滞在することもできただろう。しかし、江藤は帰国を決断する。江藤は「日本」を忘れるわけにはいかなかった。自分の存在の芯に「日本語」があり、「日本」との強いきずながあることを知ったのだった。

江藤 淳
アメリカと私