◆中上健次『十九歳のジェイコブ』角川文庫、2006年2月

いかにも中上健次らしい物語。父殺しや路地、兄の自殺、異母妹など、その後の中上の世界を彩る主題が描かれていて、面白い。「秋幸」は、父殺しをついに果たすことが出来なかったわけだが、この小説の主人公「ジェイコブ」はいとも簡単に父殺しを成し遂げてしまう。この違いは、中上作品を読み解く際には注目せざる得ないだろう。現に、文庫の解説を書いている斎藤環もこの点に着目している。他の場所では父殺しができたのに、路地ではなぜできないのか。

中上 健次
十九歳のジェイコブ