目次
1.まえがき

2.造形原理とその特徴

3.活用事例

 3.1 生産ツール

  3.1.1 国内生産の課題

  3.1.2 3Dプリンターによる治具製作

 3.2 ロボットハンド

  3.2.1 プリント基板搬送への3Dプリンターの活用

  3.2.2 吸着パッドハンドの開発

  3.2.3 ロボットハンド活用の有効性

4.ものつくりを変革する可能性とその課題

 4.1 設計の革新

  4.1.1 トポロジー最適化

  4.1.2 ジェネレイティブデザイン

 4.2 開発プロセスの革新

  4.2.1 プロセス全体で効果を発揮する

  4.2.2 プロセスそのものを革新して効果を発揮する

5.注文手順

6.参考資料

 

1.まえがき

 3Dプリンターは,積層により造形していくという従来にない加工法にもとづいており,さまざまなメリットやものつくりを大きく変える可能性を持っている.最近の技術進歩は目覚ましく,使える材料も樹脂,金属,セラミックに加えて,ゴムの特性を持つものも可能となってきた.

 また,ロボットハンド,冶具などの生産ツールや製品・部品への活用と用途が広がっている.そして,3Dプリンターがものつくりを変える可能性が見えてくるとともに,その課題も明らかになってきた.

 

2.造形原理とその特徴

 3Dプリンターは,技術の進化とともに多くの方式が提案されているが1),技術的にはAdditiveManufacturing(積層造形)と呼ばれており,基本的な原理はすべて同じである.造形する3Dデータを積層面でスライスし,このスライスデータに基づいて積層しながら造形を行うという極めて単純な加工原理である(図1).

 

図1 造形原理

 

しかし,これが切削などの従来の工法にない特徴を実現している.その特徴は,大きく以下の二つだと考えられる.a)従来工法に比較して加工時間やコストで優れるb)従来工法では作れなかったものが作れるa)については,3Dデータがあれば造形できる,型を作る必要がないことから短時間で加工ができる.加工コストは,造形物の積層の高さと体積が支配的なので,どんなに複雑な形状であっても単純形状とあまり差がない.切削加工では,形状が複雑になると加工コストが増大する.

 さらに,この加工法では,型を使う成形加工と比較して,小ロットの場合はコスト的に有利である.b)については,従来工法と比較して加工可能な形状の制約が少ない.切削加工では,加工点に工具が届かなければ加工はできない.成形加工では,型から抜けるものでなければ加工ができない.

 さらに,造形物の形状制御ができるのは工具や型が接する部分だけである.これに対して,3Dプリンターは,積層面のスライス形状が作れればどのような形状も原理的に造形が可能である.

 さらに,インクジェットを使う方式等では,吐出する材料を変化させることで,造形物の場所ごとに物性を変化させることも可能である.以上のように工法による制約からの解放により,従来工法では作れなかったものが作れる.トポロジー最適化という数学的手法を使い,強度を維持したまま大幅な軽量化を達成することも実現している.この手法は,3Dプリンターのような形状の自由度の高い加工法でないとその良さが発揮できない.さらに従来は,概念設計→基本設計→詳細設計→生産設計とステージが進むにつれて,色々な制約から機能を低下させざるを得なかったが,3Dプリンターを前提とした設計により,設計の自由度が大きくなることで,機能の低下を緩やかにできる可能性がある(図2).

 

図2 設計~生産プロセスと機能の関係

 

3.活用事例

3.1 生産ツール

 リコーの主力商品である複写機・プリンターは,1970年代からグローバルに生産を展開している.各地域での生産は,時代とともに変化し,国内では大型・高付加価値製品の多品種・少量生産に移っている(図3).品種,生産量に対応して絶えず最適生産方式を追求してきたが,その中で3Dプリンターの活用も積極的に進めている.

 

図3 国内で生産される大型プリンター

 

3.1.1 国内生産の課題

 大型・高付加価値製品の多品種・少量生産に伴い,以下のような課題に直面している.①品質大型機は,1日の生産量が数台から数十台程度であるため,作業者一人あたりの組立部品点数が多く,さらに類似部品も存在するため,組立ミスを起こす可能性が大きい.また,工程や作業者の変更により,品質を維持するまでの習熟期間が増大している.②効率作業効率だけでなく,総ロット数が少ないために治工具に対する投資効率も悪化している.③生産量変動への対応受注量に応じた生産の比率が高く,生産量変動に応じた工程変更が増加している.

 

3.1.2 3Dプリンターによる治具製作

 上記①~③の課題に対して3Dプリンターの特徴を生かした冶具製作で解決に取り組んできた.

①品質

 受け冶具設計に当たって,冶具と部品形状を同じにする,すなわち組み立てる部品の設計データをそのまま冶具設計に活用した.これは当たり前にようであるが,従来冶具は,コストを下げるために形状を極限まで簡略化し,必要最低限の点で部品を受けていた.したがって,冶具を見てどのような部品を組み立てるか連想できない.

 しかし,3Dプリンターを用いると図4,5に示すように,冶具から部品を容易に連想できるように製作できる.これは,形状を複雑にしてもコストがほとんど変化しないメリットを最大限活用している.

 

図4 組立冶具例

 

 左側の冶具では,組立てる部品を連想できないが,右は容易に連想できる.さらに,丸を付けた部分で,部品の誤った向きでの組立を防止している.

 

図5 組立冶具例

 図4と同様に組立てる部品を容易に連想できることに加えて,部品に付けていた表示を冶具に記載して,部品のコストダウンも実現した.

 

 さらに図6は,冶具へのマークを付けるとともに,関連作業の色を統一し,視認性向上を図った例である.結果として,組み立て不良と習熟期間の大幅な低減を実現した.

 

②効率

図7は複数治具の一体化を行い,冶具数と設置スペースの低減を実現した例を示している.さらに,冶具形状に加えて,レイアウトの最適化も可能となる.

 

図6 トルク識別ドライバー

 

トルク別に色を変えたキャップをドライバーに装着し,ねじボックス(写真上部)と色を合わせた.

 

図7 四つの冶具一体化例

冶具を90度ずつ回転させて組立に使用する

 

 図8は,午前中にモデルを修正すれば,夕方までには冶具を造形して検証可能となり,大幅なスピードアップを可能にした事例である.

 

③生産量変動への対応

 東北の工場では,東日本大震災以来,重い冶具はしっかりと固定されており,これが生産変動への柔軟な対応のネックとなっていた.当初は,冶具を金属から樹脂化することに現場の抵抗があったが,設計の工夫により多くの冶具の樹脂化に成功した.

 

図8 冶具レイアウト

 冶具や部品ボックスはすべて3Dプリンターで製作することで,レイアウト検討がスムーズに進んだ.

 この結果,大幅な軽量化が可能になり,マジックテープ等での固定を用いることで,生産変動への対応ができるようになった.図9は,その一例を示したものである.④冶具設計製作プロセスの変更3Dプリンターの導入で図10のように冶具設計製作プロセスは一変し,①~③の課題に対しても効果を発揮した.

 

図9 冶具軽量化例

最初に装着した20点の冶具総重量20 Kgを1 Kg弱まで軽量化できた.

 

図10 冶具製作プロセスの変化

 

 特に,想定していなかった効果として,冶具仕様書作成者が3Dモデルづくりまで行うことにより,冶具作成者の意図を正しく反映できるようになった.この結果,冶具製作期間の短縮とともに使いやすさや作業性の向上が図れた.

 

3.2 ロボットハンド

 ロボットハンドは,用途に合わせてカスタマイズする場合が多く,3Dプリンターの活用に向いた対象であるとともに,設計の工夫により,従来工法では作れない,形状・高機能なものを作ることができる.ゴムの特性を持った材料で製作した吸着パッドを使ったロボットハンドの事例を紹介する.

 

3.2.1 プリント基板搬送への3Dプリンターの活用

 実装前のプリント基板搬送は,ガイドレールや未実装面を吸引する吸着パッドを使用できる.しかし,実装後は,同様の搬送が困難な場合が多い.例えば,ガイドレールの場合は,端面にコネクターが付けられると搬送が制約される.

 そこで,図11のようにほとんどの基盤には基準穴やねじ穴があることに着目して,これを活用した基板搬送ハンドを考案した.

 

図11 プリント基板の基準・ねじ穴

 

 図12a)のように,一般的な吸着パッドでは,穴があると吸着はできないが,b)のように突起で穴を塞ぐものにすれば吸着が可能となる.

 

図12 吸着パッド

 

 さらに,この突起はプリント基板のおかれた位置にばらつきがあっても,修正して位置決めをする機能も備える.構造を分かりやすく示すために,図13に断面図も示した.

 

図13 開発した吸着パッドとパラメータ

 

 ゴム材料は,金型でアンダーカットがあっても浅ければ取り出せる.図13の継手嵌め合い部は,アンダーカット部が浅いため金型からの取り出しが可能である.しかし,エア漏れ封止突起上部のエア流路部分はアンダーカットが深く,金型から取り出せないため,金型を使用した成形ができない.

 そこで,ゴムの特性を持った材料が造形できる3Dプリンターを活用することにした.3Dプリンターは,金型で成形ができない形状に対しても造形が可能で,このような場合大変有効な工法である.また,切削が可能な形状であっても,ゴムの特性を持った材料は,加工が容易ではない.

 

3.2.2 吸着パッドハンドの開発

吸着パッド形状を先ず机上検討した結果,図13のように①~⑤の5項目のパラメータを最適化すれば良いことが分かった.すべてのパラメータを2~3水準振った形状をすべて一度に3Dプリンターで造形して評価した.評価結果からパラメータの水準をさらに絞り込んだものを造形して評価することで,短期間で最適化設計が完了した.このように3Dプリンターは,多くのパラメータを短期間で最適化する時にシミュレーションと同様に大変有効なツールである.開発した吸着パッドは,目標仕様を達成し,現在搬送システムの開発に着手している.

 

3.2.3 ロボットハンド活用の有効性

 3Dプリンターは,多くのパラメータを振った3Dモデルを作成して,同時に造形することで試作の効率を高めることを事例で示した.また,造形原理とその特徴で述べたように,吐出する材料を変化させることで,造形物の場所ごとに物性を変化させることも可能であることから,部品等把持する部分をゴムの特性を持った柔らかい材料にして,把持するものを傷つけずに密着性を向上させることができる.

 一方,把持する部分以外は,剛性の高い材料を使うことで信頼性の高いハンドを作ることができる.以上のように従来工法では作れなかった形状・機能を持つハンドが製作可能なことから,ロボットハンドへの活用が,より一層加速するものと予想される.

 

4.ものつくりを変革する可能性とその課題

 3Dプリンターの特徴及び活用について述べてきたが,従来工法と比較して劣る部分も多く,課題も残されている.加工品質(加工精度,造形物表面の品質等)や型ができた後の生産性では成形加工に劣る.

 また,材料も射出成形と比較して,まだ種類が少なく,高価である.しかし,ものつくりの歴史を振り返るとこの新しい造形方式は大きな変化を引き起こす可能性を感じさせる.長い歴史を持つ樹脂の射出成形は,1970年代の技術の急激な進歩と高い経済成長率の中で,ものつくりとわれわれの生活を大きく変えた.

 現在の3Dプリンターも1970年代の射出成形と類似の状況にあり,技術の進歩とニーズの多様化,マスカスタマイゼーションの流れを受けて同様の変化が起きると考えられる.

 以下では,3Dプリンターの技術的な進歩を前提として,ものつくりを変えるためにどのような視点で取り組むべきかを述べたい.

 

4.1 設計の革新

 ものつくりは,設計から始まり,その後のプロセスの枠組みを決めてしまうと言っても過言ではない.したがって,3Dプリンターの特徴である,工法の制約からの解放は,設計の革新,そしてものつくりの革新をもたらす.しかし,現状では,3Dプリンターの特徴を生かした設計法があまり浸透しておらず,メリットが生かされていない.図14は,筆者が普段使っている名刺入れである.

 

図14 名刺入れ

SLS方式の3Dプリンターで一体造形した.

 

 名前が刻印されているとともに,名刺を入れる部分と開閉するふたは,組立を行っておらず,3Dプリンターで一体造形したものである.精度が厳しいものでなければ,ギアーボックスの一体造形も可能である.このように組立てレスで製品が作れるので,部品を個別に製作したのでは,組立て不可能なものも作ることができるが,特徴を生かした製品やその設計技術は一般的ではない.しかし最近は,この課題を解決する新しい設計法も生まれてきている.代表的なものが,トポロジー最適化とジェネレイティブデザインである2).以下これらについて,その概要に触れる.

 

4.1.1 トポロジー最適化

 形状の最適化として,寸法最適化の域を超えて,設計対象の穴の数,体積領域の繋がりまでを最適化するものである.図15は,片持ち梁の適用例であり,この場合は,軽量化と強度の最適化がなされている.

 

図15 片持ち梁でのトポロジー最適化

右側の最適化された形状は,切削等の従来工法での加工が困難な場合が多い.

 

 このトポロジー最適化は自由度が高いために,従来工法では加工が困難な結果が導き出されることが多く,3Dプリンター造形こその特徴を引き出すことができる.

 

4.1.2 ジェネレイティブデザイン

 3Dプリンターは,非常に複雑な形状の造形が可能である特徴を生かして,この方法は人では設計が難しかった複雑形状をコンピュータがアシストして可能にする設計手法である.図16は,スピーカーの設計に適用した事例である.

 

図16 ジェネレイティブデザインを活用したスピーカー

左側は,スピーカー内部の構造を示している.

 

 スピーカー内部は,音を反射しない音響試験室と同様の構造となっているとともに,その吸音のための四角錐状のパターンは一つ一つ異なっている.これにより周波数に依らない音響特性を目指している.

 さらに,これまでも長く研究されてきたバイオミメティクス(生物模倣)により,最適形状が分かっていても従来工法では,加工可能な範囲の形状に限られていた.3Dプリンターは,この分野でも活躍していくであろう.

 新しい設計法を確立することで,今まで作れなかったものも作れるようになる.さらに,設計パラメータを変更すれば,個々のニーズ対応も可能である.それは,非常に魅力が高いものや,高機能・高付加価値製品を生み出せるため,ものつくりのグローバルに伴う国際分業の視点から日本のものつくりに親和性が高く,貢献すると考える.

 

4.2 開発プロセスの革新

 ものつくりで3Dプリンターを活用するには,プロセスという視点は大変重要である.特に以下の視点が挙げられる.a)プロセス全体で効果を発揮するb)プロセスそのものを革新して効果を発揮する.

上記二つは,切り離せるものではないが,分かり易く解説するために項目を分けて述べる.

 

4.2.1 プロセス全体で効果を発揮する

 3Dプリンターの材料は高価であるため,生産ツールへの活用で述べた冶具製作コストだけでみると効果が小さい場合が多い.しかし,3Dプリンターで製作した冶具は,生産というプロセスまで含めてみると,組立不良・作業者の習熟時間の低減の他,複数冶具の一体化により,組立スペースや作業者の歩行距離の削減をもたらした.

 また,冶具の軽量化により,冶具の固定方法,ライン構成を変更することで,生産量変動への対応に掛かる時間の削減をもたらした.金属の3Dプリンターでは,金型製作を用途とするものも発売されている.この使用を前提とすることで,金型加工プロセスでの放電加工を用いないことによる加工時間の削減,成形加工プロセスでは,切削加工ではできない効率の高い冷却管により成形サイクルの削減が可能になる.

 さらに,製品設計,金型設計まで含めた全プロセスでの最適化を図れば更なる効率化を実現できる.以上のように,3Dプリンター活用ではプロセス全体を最適化して,効果を出すことが重要である.

 

4.2.2 プロセスそのものを革新して効果を発揮する

 ソフトウエアの世界では,β版を上市するという考えがあり,まず出してみるということが行われてきたが,ハードウエアの世界は,困難であった.例えば,射出成型品であれば,製品設計,金型設計,金型加工,射出成形という時間とコストが掛かるプロセスが必要で現実的ではない.

 しかし,3Dプリンターはものの世界でβ版を出すハードルを下げることが可能である.3Dモデルを作成し,3Dプリンターで造形という早くて安いプロセスを実現できる.図17は,360度カメラRICOHTHEATの量販店での展示台の事例である.3Dプリンターを活用し,まず作って,それを展示スペースで実際に使いながらより良いものに改良した.

 

図17 開発・設計と生産の垣根を取り去るプロセス

 

 このようなプロセスは,開発・設計の完成度を短期間に高められるだけでなく,ニーズや市場が十分な精度で予測できない場合,大変有効な手段となる.このように,開発・設計と生産の垣根を取り去るプロセスが実現できる.

 近年,IoTがものつくりの分野での活用が進んでおり,プロセス革新の重要なツールとなっている.生産工程のモニタリングに活用すれば,生産工程の最適化・効率化につながり,製品のモニタリングに活用すれば製品の最適化につながる.開発・設計と生産の垣根を取り去るプロセスに,IoTを活用した製品のモニタリングを組み合わせることで更なる効果を生み出していく試みを進められている.

 以上のように,3Dプリンターがトリガーとなって,IoT,AIと結びつき,マスカスタマイゼーションの流れも加わり,ものつくりを大きく変えていこうとしている.そしてこれは,3Dプリンター技術の進化を加速していくものと考える.

 

5.注文手順

 以下のリンクをクリックすると、JLCPCBのプリント基板及び3Dプリント製品の注文画面に移動できます。ご利用頂ければ幸いです。

 

6.参考資料