目次
1.まえがき

 1.1 PBF方式とは

 1.2 PBF方式の特徴を活かした用途

  1.2.1 難削材での造形

  1.2.2 一体造形による部品点数の削減

  1.2.3 3Dプリンターならではの自由形状の実現

 1.3 PBF方式の活用分野

 1.4 品質は経験と蓄積によって作られる

 1.5 日本の金属3Dプリンター出力サービスの今後

2.3Dプリント技術応用事例及びメリット

 2.1 事例概要

 2.2 3Dプリンター活用前の課題

 2.3 3Dプリンターならではの形状・材料変更の提案をもらい、30%以上の工数の削減を実現

 2.4 金属プリンター応用

  2.4.1 Metal Xの造形の仕組みについて

  2.4.2 Design:設計・造形準備プロセス

  2.4.3 Print:造形プロセス

  2.4.4 Wash:脱脂プロセス

  2.4.5 Sinter:焼結プロセス

  2.4.6 Metal XとMIMとの違い

  2.4.7 PBF方式との違い

  2.4.8 導入企業・活用用途について

  2.4.9 3Dプリンター導入に関する海外と日本の考え方の違い

  2.4.10 MEX方式の金属3Dプリンターを導入する際のハードル

 2.5 SLA方式応用

  2.5.1 MEX方式との比較

  2.5.2 新材料開発による拡大されるSLA方式の用途

  2.5.3 高強度材料で治具製作

  2.5.4 高強度材料で板金成形の簡易型製作

  2.5.5 高靭性材料でシリコン成形の簡易注型製作

  2.5.6 高耐熱材料で低融点金属での簡易鋳造型製作

  2.5.7 SLA方式の今後

3.注文手順

4.参考資料

 

1.まえがき

 3DPエキスパートにてバインダージェット方式(Binder Jetting: 結合剤噴射方式)とMEX方式(Material Extrusion: 材料押出積層方式 別名FDM方式)の金属3Dプリンターについてコラムを掲載しましたが、現時点で最大の市場規模を維持しているのはPBF方式(Powder Bed Fusion: 粉末床溶融結合方式)です。PBF方式は導入・維持費用が大きいこともあり導入できる企業はまだ限られ、航空・宇宙産業・医療などのハイエンドな少数部品の製造する分野での活用が進んでいますが、他の産業分野への展開はまだ限定的です。
 今回は日本にてPBF方式の金属3Dプリンターを所有して3Dプリンター出力サービスを提供している日本のサービスビューローの方からPBF方式の活用例、課題、今後の展望を伺うことができました。

 

1.1 PBF方式とは

 PBF方式はレーザーや電子ビームを、平たんに敷き詰めた金属粉末に照射し溶融・凝固または焼結させて積層造形します。レーザーを使用するタイプはSLM(Selective Laser Melting)、ビームを使用するタイプはEBM(Electron Beam Melting)などと呼ばれます。MEX方式やバインダージェット方式と異なり、金属粉に直接造形するため脱脂・焼結が不要で、造形物が収縮することもなく強度が高いという特徴を持っています。装置の本体価格が高額である上、粉塵爆発対策等の対策設備などの付帯設備や運用環境を整備する必要があり、導入・維持費用が大きい方式です。

 

図1 PBF方式イメージ

 

1.2 PBF方式の特徴を活かした用途

 航空・宇宙産業・医療などのハイエンドな少数部品の製造する分野での活用が進むPBF方式ですが、PBF方式登場以前は、従来工法の組み合わせ(鋳造や鍛造、切削などの組み合わせ)で製造されてきました。こうした歴史も実績もある従来工法と入れ替わる形で、PBF方式がハイエンド部品製造の第一線を担うようになってきたのは合理的な理由があります。リードタイムを短縮し、品質を向上させ、コストダウンすら可能にしたのです。なぜ3Dプリンターが従来工法ではなしえなかったQCDの改善を実現できたのでしょうか。その理由は主に3点あげられます。

 

・ 難削材での造形
・ 一体造形による部品点数の削減
・ 3Dプリンターならではの自由形状の実現

 

 1.2.1 難削材での造形

 航空宇宙産業の分野で利用されることが多いチタン合金は、熱に強く非常に軽い上に硬い材料ですが、削ることが難しい難削材の一つと言われています。従来はチタン製の部品を製造しようとする場合、切削加工が用いられてきました。チタンブロックを切削加工機で削りながら形状を作っていくため、非常に加工時間が長くかかっていました。加工時間は部品の価格に大きく影響します。加工に時間がかかるチタン製の部品は、リードタイムも長く、コストも高くなっていました。PBF方式などの3Dプリンターは、チタンのような難削材でも粉末を焼結させることで容易に造形でき、加工時間を大幅に短縮することが可能です。その上、造形時に必要なだけしか材料を消費しません。廃棄する材料も少なく加工時間も短いため、難削材の加工は3Dプリンターが得意とする分野となっています。

 

図2 難削材イメージ

 

 1.2.2 一体造形による部品点数の削減

 3Dプリンターは金型を用意する必要がないため、金型で造形する際の工法上の制約を意識せず複雑な形状が可能です。自由な形状が可能であるという点を活かして、複数部品を組み立てて構成していた部品を、一体として造形することも可能になります。航空宇宙産業、医療のような、部品ごとに厳格な認証を取得する必要がある用途で用いられる部品は、部品点数を削減することが認証に必要な費用や期間を圧縮する効果もあるため、大きなメリットにつながります。

 

 1.2.3 3Dプリンターならではの自由形状の実現

 加工の自由度が高いという事は、設計の自由度を大幅に向上させることができます。肉が抜かれた網状の構造体であるラティス構造を駆使して、部品を軽量化しながら強度を維持するアプローチは、航空宇宙産業で求められる軽量化に大きく貢献できます。ロケットの場合、打ち上げる重量が軽ければ燃料も少なくすみ、ジェットエンジンに求められる性能も抑制できます。通常の工法でラティス構造を実現することは困難だと言われています。ラティス構造は切削や金型で実現費消とするには、あまりにも複雑で加工点が多い形状です。加工点が多いほど加工時間やコストに影響を及ぼします。またそれに比例して加工の難易度も上がっていくでしょう。切削や金型を用いて同等の部品を作ることは、たとえ技術的には可能でも、経済合理性がないため困難なため、3Dプリンターは独自の価値を発揮していると言えるでしょう。

 

図3 造形イメージ

 

1.3 PBF方式の活用分野

 最終製品としては製造ロットが少なく精密かつ耐久性能が求められる航空宇宙産業や、レース用自動車、また複雑な切削が困難な超硬工作機械や医療機器構成部品に活用されています。その他自動車分野では強度が求められる機能試作品として、また、生産終了された生産機器の保守部品として活用されています。

 

1.4 品質は経験と蓄積によって作られる

 金属3Dプリンターは新しい工法であるがゆえに、適切な品質管理を行うための方法論が、従来工法に比べると発展途上にあると言われています。すでに金属3Dプリンターを使った造形を行っているサービスビューロでは、独自の品質管理手法をもって高い精度と均一な品質で部品製造を行うことができるかもしれませんが、その裏にはさまざまな課題を乗り越えてきた歴史があると思われます。

 一例をあげると、日本は先行して金属3Dプリンターに取り組んできた欧米と比べて梅雨などの湿度が高い季節があります。金属の粒径を揃え、形状を揃えても、湿度が影響して滑らかに金属粉を均せないことで品質に影響することがありました。しかしこの原因にたどり着くまでに、考えられるあらゆる要素を繰返し検証してきた経緯がありました。こうした品質に影響する要因を制御する努力や仕組みは大きく品質に影響するため、同じ設計データを支給し、同じ金属3Dプリンターと同じ材料を指定しても、サービスビューロによって仕上がりが異なる場合もあるほどです。

 

1.5 日本の金属3Dプリンター出力サービスの今後

 日本で金属3Dプリンターを使った造形サービスを提供しているサービスビューロは複数存在しますが、各社ともに、日本のメーカーや加工業者が3Dプリンター造形に対して、諸外国よりも慎重である点に危機感を募らせています。日本の製造現場では、金型技術や切削技術の従来工法が高い水準で実施されているがゆえに3Dプリンター活用への挑戦が相対的に少ないと感じています。
 特に中国や東ヨーロッパでは歴史的背景もあり従来工法にそれほどこだわりはなく、3Dプリンターを使った製造が日に日に増加していると言われています。それにより日々ノウハウを蓄積が進み、日本との間で大きなAM技術格差が生まれる可能性があり、今後の日本の国際競争力に大きく影響すると思います。小さく限定的な取り組みからでも、実際に3Dプリンターを自社でどのように活用できるか3Dプリンター出力サービスを利用して経験して頂き、今後の活用方法を模索して頂きたいと感じています。

 PBF方式の金属3Dプリンターは独自の強みを持つ工法ですが、万能の工法ではありません。既存工法と組み合わせることで大きな付加価値を部品や製品で実現できる可能性がある工法です。いままで特定の業種に活用がとどまっていたPBF方式金属3Dプリンターの活用ですが、3Dプリンター出力サービスを利用しながら自社で従来工法と組合せて活用して頂くことも、新しい営業機会や高付加価値を創出するモノづくりを実現する一つの手段だと言えるでしょう。

 

2.3Dプリント技術応用事例及びメリット

 下記内容は3Dプリントを導入したい企業イメージとなります。

 ・企業:産業機械用の精密部品メーカー

 ・部門:生産改革部門

 ・社内応用状況:外部の3Dプリンター出力サービスを活用していた。(材料ラインアップが少ないため、材料ラインアップの豊富なサービサーを探索していた)

 

2.1 事例概要

・精密な動きが求められる産業機械用の精密部品は、品質第一で製造。

・複数部品を組み立てながら、精度を上げていくために、仮組みしてから切削・研磨する等、手間がかかっても精度を上げていく工程をとっていたが、3Dプリンターを使った治具で工程改善を行うことを検討。

・実際に治具サンプルを3Dプリンター出力サービスに委託製造したが、球状部品を保持できる形状の造形がむずかしく、期待通り動作しないという課題が発生。

・リコーの出力サービスに相談したところ、材質変更と形状の一部変更を提案され、実際に提案を採用したところ、期待通りの部品保持ができる治具を制作できた。

・数週間程度多角的に工程を変更した際の影響を検証した結果、大幅な工数削減が実現できると認められたため、全国の製造拠点に水平展開を実施。

 

2.2 3Dプリンター活用前の課題

 ミリ単位の挙動を求められる産業機械用の精密部品の組み立て工程では、高い水準の部品精度を求められます。長年の改善の積み重ねで部品精度は高い水準を維持していますが、やむを得ず「仮組みしてから切削・研磨し、部品をばらし洗浄後、組み立てる」という二度手間を行っている工程がありました。

この工程の合理化を行うために、仮組みしなくても複数部品を保持できる固定治具が必要でしたが、従来工法では実現できない複雑な形状を持たせる必要がありました。そこで、3Dプリンターで造形することを念頭に置き、社内で治具を設計し、外部の3Dプリンター出力サービス業者に依頼。アクリル樹脂で造形したのですが、うまく部品を保持することができず、改善が必要な状態でした。社内で形状や材料変更を試行錯誤したのですが、解決のめどが立たず、取り組みは暗礁に乗り上げてしまいました。

 

図4 応用イメージ

 

2.3 3Dプリンターならではの形状・材料変更の提案をもらい、30%以上の工数の削減を実現

 問い合わせフォームから相談すると、長年設計者として経験を積んだ上で3Dプリンターでの造形を行っている技術者が相談に乗ってくれ、治具の図面と現状の課題をスムーズに理解してくれました。硬いアクリル樹脂ではなく、靭性の高いPPに材料を変更することで組立性向上、さらに強度アップ、耐摩耗性アップが達成できるで、図面の一部を変更する提案をもらいました。

この提案をもとに発注したところ、わずか1週間程度で造形された治具が手元に届き実際に工程が改善できるか検証することができました。実際に使ってみながら、リコーの技術者とリモートで会議をして懸案事項を一つ一つ改善していきながら更に改善を加えました。その後本格的にこの治具を使った工程改善が可能かどうか検討を行い、高い水準を維持する為に実施していた二度手間を省き30%以上の工数の削減を実現できる上に、品質面でも影響がないことが検証できたため、同型の治具を必要数追加注文しました。

 

図5 造形設計イメージ

 

2.4 金属プリンター応用

 

 3DPエキスパートの読者の方からも金属3Dプリンターに関する問い合わせは非常に増えています。永らく金属3Dプリンターの本流といえばPBF方式(Powder Bed Fusion: 粉末床溶融結合方式)の金属3Dプリンターでした。近年、MEX方式(Material Extrusion: 材料押出積層方式 別名FDM方式)の金属3Dプリンターが急成長をしており出荷台数でもPBF方式を上回る勢いです。
 今回取り上げるマークフォージド社のMetal Xはその金属MEX方式の代表的な機種の一つで、2017年の発表以来世界中で導入が相次ぎ、金属3Dプリンターの裾野を広げたと言われています。「Metal Xはなぜ世界中で導入が進んだのか。」「日本の製造業でどのような活用が可能なのか。」マークフォージド社の一次店として活動するデータデザイン社に世界、日本での普及状況、活用用途、の現在と今後の展望に関して詳しく解説をいただきました。

 

 2.4.1 Metal Xの造形の仕組みについて

 Metal Xは3DCADで設計された部品の設計データを専用ソフトで取り込んでから、造形・脱脂・焼結の3つのプロセスで金属部品を造形します。このプロセスはMIM(Metal Injection Molding:金属射出成型)の技術を応用しているといわれています。

 

図6 金属プリント手順

 

 2.4.2 Design:設計・造形準備プロセス
 CAD等で作成された設計データをクラウドベースの専用ソフトウェアEigerで取り込み造形準備を行います。後工程で行われる脱脂、焼結プロセスでは造形物が約20%程度収縮します。Eigerはこうした収縮の影響を織り込んで、設計データに補正を行い、脱脂・焼結後も意図通りの仕上がりになるような造形データを自動で生成します。造形物の材質、形状、厚みなどを加味した補正データを自動で用意できる点は非常に便利です。

 

 2.4.3 Print:造形プロセス
 設計・造形準備プロセスで生成された造形データを基に、3Dプリンターが造形します。造形材料は樹脂と金属を混錬した専用フィラメントを使用しますので取り扱いが簡単な上、セラミックス系材料のサポート材を利用していることで、ワイヤーカット放電機などを使わずにビルドプレートから造形物を取り除くことができます。手作業でもサポート材の除去が可能なほど剥離が容易です。

 

 2.4.4 Wash:脱脂プロセス
 材料フィラメントにはバインダーと呼ばれる樹脂成分が含まれているため、加温した有機溶剤に造形物を漬け込むことでバインダーを溶かしながら除去します。このプロセスを脱脂と呼びます。Metal Xでは専用の脱脂装置を用意していますが、脱脂装置もEigerが自動制御します。

 

 2.4.5 Sinter:焼結プロセス
 最後に、焼結炉で焼き固めることで金属部品を造形します。焼結プロセスは、温度、圧力、加熱時間などを形状によって調整する必要があるノウハウが求められる工程なのですが、Metal Xは専用焼結炉をEigerが制御するため品質を一貫して維持できます。焼結後の金属は最大密度96%以上といわれておりまして、滑らかな表面精度を実現しています。

 

 2.4.6 Metal XとMIMとの違い

 MIMも造形・脱脂・焼結という3つのプロセスを経て金属部品を生産する点ではMetal Xと同じです。違いは造形プロセスにありまして、MIMは金型を使った射出成型で造形するので、精密な微細造形を高速で行うことが得意です。一方、MEX方式の3Dプリンターは金型ではなく造形を3Dプリンターで行うため、射出成型ではできない形状の造形、金型の製作プロセスが不要等、多品種少数生産向きです。また造形できる大きさにも違いがありましてMIMは小さなもの(SUSで50g以下)しか造形できないのに対し、Metal Xではより大きなものが造形できます。(Metal Xの最大造形エリアは300mm X 220mm X 180mm)

 

図7 金属プリントイメージ

 

 2.4.7 PBF方式との違い

 金属粉をレーザー等で熱溶解しながら造形するPBF方式の金属3Dプリンターは、Metal XのようなMEX方式で造形し、脱脂・焼結する金属3Dプリンターと大きく3点違う点があります。

 

・Metal Xは初期投資が低い
 BF方式では金属粉を使用する為、窒素やアルゴンガスを充填させる防爆設備、吸い込むことで健康被害につながる可能性があるため防塵対策等MEX方式と比較して大掛かりな設備が必要となります。また高額なレーザー照射装置を備えるため装置価格が高額になりがちです。一方で、MEX方式は脱脂・焼結装置を含めても、PBF方式の金属3Dプリンターよりも装置価格が低く、大幅に初期投資を抑えることができます。


・Metal Xは材料変更が容易
 材料変更をする際に、PBF方式の場合、充填されている金属粉末をすべて回収し、その後別材料に入れ替えるという工程が必要です。この段取り替えの際に、材料の混入も懸念されるため、手軽な作業とは言えないと思います。しかしMEX方式は材料がフィラメントであるため、材料交換が簡単にでき、通常であれば10分程度で材料を変えることができ様々な材料で多品種少数生産をする、金属を使った試作品製作等に最適と考えています。

 

図8 材料イメージ

 

・Metal Xはサポート除去が容易
 先ほどもご紹介しましたが、MetalXはサポート材にセラミックスを利用しています。剥離に切削加工機を利用せずに手作業での剥離が可能です。この点はビルドプレートとよばれる台座から取り外す際にワイヤーカット放電機などを使って切除する必要があるPBF方式の金属3Dプリンターとくらべると手間がかからないといえると思います。

 

 2.4.8 導入企業・活用用途について

 PBF方式は初期コストが高いため、航空・宇宙・医療等、高付加価値分野での活用が大多数を占めています。しかしMEX方式は他業種でも高いROIを得られることもあり金属での試作・治具製作を目的として裾野を広げ始めました。また特にサプライチェーンの寸断が世界的に起こったコロナ渦では、保守・補修部品製造の活用が伸びたと言われていまして、世界中で大変活用が進んだと言われています。

 

図9 用途イメージ

 

 2.4.9 3Dプリンター導入に関する海外と日本の考え方の違い
 日本では既存工法の歴史は長く、技術水準、設備、品質、また受発注の仕組みも長年の改善活動で高いレベルで確立されています。しかがって3Dプリンターのメリットを活かした製造を新規で検討する際に、既存工法を置換える点で慎重になっているように感じます。また日本企業は材料技術の面で独自のノウハウを多数保有しており、マークフォージドの3Dプリンターを検討する際に自社独自の配合の材料を使いたいというお客様は多く、この点も日本の特色と聞いています。

 

 2.4.10 MEX方式の金属3Dプリンターを導入する際のハードル
 PBF方式と比較すると初期投資を抑えることはできますが、装置の設置条件、仕上がり寸法の面で考慮するべき点があります。脱脂装置で用いられる有機溶剤は環境負荷が高く取扱いには注意が必要で、揮発性のガスを排出する換気設備も必要になります。また高温で金属を熱する炉を持つ焼結炉は消防法の観点から耐火扉や一定以上の天井高を備える必要があり、どこにでも気軽に設置はできません。また仕上がり寸法に関していうと、脱脂・焼結プロセスでは造形物に20%程度の収縮が発生します。あらかじめ造形用のデータの収縮を考慮して作成する必要があると言えます。

 マークフォージドのMetal Xでは、3Dプリンターと連携して機能する脱脂装置と焼結装置を用意しています。そのうえで、クラウドベースの専用ソフトEigerが各プロセスを制御しています。Eigerは設計データをもとにした仕上がり状況のシミュレーションや、造形指示データの作成など造形準備のために必要な機能をもっています。造形プロセスを制御するだけでなく、脱脂・焼結プロセスで収縮することも考慮にいれた造形用データを自動で生成します。簡単にいうとあらかじめ大きく作るためのデータを自動で準備し、各プロセスを制御してくれるわけです。Eigerはクラウドベースのソフトウェアなので常に最近の機能を使うことができます。マークフォージドの創業者メンバーはCAD系ソフトハウスの大手Solidworksの出身者である点もあってか、ソフトウェア面での対応にも力を入れています。発売後も精力的に利用者のからのフィードバックを収集して改善をクラウドベースのEigerに反映しています。

 

図10 設計イメージ
 

2.5 SLA方式応用

 SLA方式とは光造形方式の一つで、光硬化性樹脂の液体(リキッドフォトポリマー)に対して、レーザーを当て硬化させながら、造形プレート(ビルドプラットフォーム)に造形物を作り出します。表面精度が非常に優れており、等方性(物理的性質が方向によって違わない)が高いのが特徴です。また、プロジェクターのように面状のUV光を照射しながら造形してくLCD/DLP(Digital Light Processing)方式も光造形に含まれ、中国などではLCD/DLP方式の廉価で造形スピードが速いが精密度が若干SLA方式よりも劣るプリンターが続々と発売されています。 光造形方式では材料として使用されている光硬化性樹脂の液体、また造形後に洗浄の為に使用するアルコール類は換気や所定の廃液処理方法が必要となります。

 

図11 SLA方式

 

 2.5.1 MEX方式との比較

  MEX方式は取り回しが簡単なフィラメントを巻き付けたリールを利用することで、廃液処理等が不要でありオフィス内でも手軽に活用できます。またこのフィラメントには強度・耐久性・耐熱性・対候性の高い種類があり、目的に合った材料を簡単に装着できることも魅力です。しかしフィラメントを熱して溶かしながら一筆書きに部品を造形していくので、特に廉価帯の機種では、積層痕とよばれる段差のような跡が出てしまい、表面性は粗く研磨等の後加工を行い仕上げることが必要なことがあります。また線で一層ずつ積み上げるように造形するため、異方性があり、加わる力の向きによって歪みやたわみが出やすいという傾向にあります。

 

図12 造形方比較イメージ

 

 2.5.2 新材料開発による拡大されるSLA方式の用途

 SLA方式で利用できる材料が少なかった頃は、造形物の強度等の機械性能がMEX方式の造形物よりも劣っていました。したがってSLA方式の用途はその高精細・等方性特徴を活かし、デザイン確認や部品として製品に組付けたときに他の部品との干渉を確認する等を目的とした「簡易試作」が一般的でした。
 しかし近年強度・耐久性・耐熱性・対候性が向上された材料が開発されて市場に投入されて機械的性能が向上したこともあり、「簡易試作」だけに留まらず、試作品に組付けて動作が確認できる「機能試作」、最終製品、簡易型等に用途の幅が広がってきました。近年広がりを見せるSLA方式の用途について具体例を4つご紹介します。

 

・高強度材料で治具製作
・高強度材料で板金成形の簡易型製作
・高靭性材料でシリコン成形の簡易注型製作
・高耐熱材料で低融点金属での簡易鋳造型製作

 


 2.5.3 高強度材料で治具製作
 アメリカのあるホームセンターでは、木材加工装置を稼働させる際に、精密な寸法精度、表面性が求められる位置決め治具を利用しています。最小発注数が1,200個で単価が10ドル、納期は3-4週間程度かかっていたということです。この精密な寸法精度、表面性が求められる治具をSLA方式にて高強度材料(Tough:タフ)を使用して作ることが出来ました。これにより最小発注数の縛りがなくなり、単価は5ドル90セントと40%削減、また納期的にも16個制作する際に15時間半と20分の1以下の納期で用意することができるようになったため、大きなコスト削減、納期圧縮を実現できたとのことです。

 

図13 治具製作イメージ

 

 2.5.4 高強度材料で板金成形の簡易型製作
 樹脂3Dプリンターでは樹脂しか造形することはできませんが、造形ショット数が少ない簡易型を3Dプリンターで造形することで金属部品の造形にも活用することができます。しかし板金成型で使用するので精密な寸精度、表面性が要求され、ショット数が限られているといってもある程度の強度が必要となるので、SLA方式で高強度材料(Tough:タフ)を選択しました。内製することでリードタイム・コストの削減を達成でき、変量変種生産に柔軟な対応をとる際の現実的な手段として注目されています。

 

図14 板金成形の簡易型製作イメージ

 

 2.5.5 高靭性材料でシリコン成形の簡易注型製作
 製品や部品で利用している材料と同じ材料を使って試作品や少量製造をしたい場合があります。よく相談にあがるのがシリコンのような柔らかい樹脂材料です。3Dプリンターで注型を作ることで、内製化のハードルを大幅に下げることが可能です。高い表面性を持ち、シリコン製の製氷プレートをねじって取り出すために靭性が高い注型をSLA方式で高靭性材料(Durable:高靭性)を使用して製作することができます。

 

図15 シリコン成形の簡易注型製作イメージ

 

 2.5.6 高耐熱材料で低融点金属での簡易鋳造型製作
 スズや鉛、亜鉛などの低融点金属用の鋳造型は寸法精度・表面性が高いSLA方式にて耐熱材料(HighTemp:耐熱)を使用して様々な形状で製作することが可能です。電子部品や日用品などの強度を必要としない部品を制作する際に利用できるため、試作品を製作する際の選択肢が大きく広がります。

 

 2.5.7 SLA方式の今後
 比較的手軽に使うことができるMEX方式の3Dプリンターを活用し、試作品造形を繰り返しながらモノづくりのプロセス改善サイクルを効率化している開発者は着実に増加しています。こうしたすでに実践している方の中には、現状のMEX方式の精度に物足りなさを感じながら、装置の限界だとわりきってできる範囲で活用している方も少なくないかもしれません。しかし100万円以下で導入できるSLA方式の3Dプリンターでも近年、造形材料が多様化しより高度な造形が可能になってきました。精密でありながらより強度をもった治具の造形など、数年前にできなかった造形がSLA方式でも可能になってきています。

 今回は取り上げませんでしたが、透明材料を活用した治具製作など、試作開発時にさまざまな知見をえることができる材料も登場しています。年々進化するSLA方式の3Dプリンターはそんな方々の要望を実現する一つのソリューションとして完成度を高めてきました。数年前の常識にとらわれることなく絶えず進化する3Dプリンターを体験してみると新しい活用用途が見えてくるかもしれません。
 

3.注文手順

 以下のリンクをクリックすると、JLCPCBのプリント基板及び3Dプリント製品の注文画面に移動できます。ご利用頂ければ幸いです。

4.参考資料