30年前の「人生80年時代」に刊行された大谷羊太郎氏の『六十歳革命』(光文社文庫)を読んで――。

もはや「人生90年時代」。そして「人生100年時代」実現まであと少しでしょうか?

[2024・9・12・木曜日]

 

 

 

 

先日、ちょっと遠いところに出かける用事がありました。日帰りですが、電車に数時間乗車予定です。往復ざっと6時間程度でしょうか。当然、車中で何を読むかが問題になります。この前の一泊二日の旅行では、黒木亮氏の『世界のこの目で』(角川文庫)を持参して正解でした。

 

今回も本棚を見て……。しばし思案しつつも、手にしたのが「積ん読」していた大谷羊太郎氏の『六十歳革命』(光文社文庫)でした。これまた正解でした。

1995年刊行の本です。30年弱昔の本です。大谷さんは1931年生まれで2022年に亡くなっています。享年91。

 

江戸川乱歩賞を受賞したミステリ作家とのことですが、私は読んだことがありません。この本が初めてで最後になるかも?

 

この本を書いていた時(本作は書き下ろし作品)の大谷さんは63歳ごろだったようです。本書刊行前の還暦になるころに、母校のクラス会に出て「いよいよこれからは、本気になってがんばるよ」と挨拶したところ、みんなから「は、は、は、これからだって」「まさか、これからとはね」との笑い声が発せられたといいます。

もう還暦で引退の歳なのに、がんばるもなにもないだろうという諦念的な雰囲気が漂っていることに、大谷さんは違和感を覚え、この本を書いたようです。

思えば、自分は自由業でサラリーマン体験がほぼないので、同級生のサラリーマンのように「定年」を区切りにして「現役」「引退」「余生」という概念がないから、還暦すぎても「これからは、本気になってがんばるよ」と言い切れたのだと気付きます。

 

1990年代前半当時は、「人生80年時代」と言われていたそうです(いまは「人生100年時代」ですが?)。

ですから、「20」年単位で人生を見れば、還暦時では、当時としてもまだ「四分の三」が終わったところで、残り「四分の一」の人生が始まる時だったのです。だから、最後の20年間をがんばろうと大谷さんは述べたわけです。

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そんなエピソードから本書は始まります。そして子供時代から大学時代(中退)、バンドマンとしての社会人時代(サラリーマン生活はほぼゼロ)、40代で江戸川乱歩賞を受賞してからの作家生活……を振り返りつつ、人生とはなにかを真面目に追究したエッセイ本でした。

 

大谷さんのことはまったく知りませんでしたが、慶應大学(文学部)時代には折口信夫さんに傾倒もしています。親の破産で学生時代からバンドマンとしての仕事に奮戦し、学費が払えなくなり除籍中退。そのあともバンドマンとしての日々が続き、なんとあの「克美しげる」のマネージャーを務めたこともありました。彼との思い出も綴られています。

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子供時代の真珠湾攻撃を知った時の驚きや、敗戦、バブル時代の価値観の逆転現象等々……。

あてにならない「世間の常識」に惑わされることなく、下手な競争心を持たずに、へりくだった低姿勢の生き方を実践することによって、精神的安定をえられたこともあったなどとも綴っています。

 

還暦すぎても、いまでいうところの前期高齢者になっても、「余生」と思わず、人生まだこれからだという思いを持つべしとのことです。大谷さんはこの本を書き下ろしてから、30年弱を生きて、2022年に亡くなっています。「人生80年」ではなく「人生90年」を生きたわけです。そういえば、2024・8・28には、あの宇能鴻一郎さんも亡くなりました。享年90。

 

戦前、戦時中、戦後まもない時の混乱期、貧困時代を生き抜いた大谷さんや宇能さんでも「人生90年」は達成可能だったようです。戦後生まれの全共闘世代からは「人生100年」もぞろぞろと出てくることになるのでしょうか。

我々のような新人類世代(1960年[+-]1歳前後]生まれ)は「人生110年時代」?

 

大谷さんも受験時代の苦労なども作家となってからは結実もしているとのことで、下向きにならずに上を向いて行こうという趣旨のことを力説されていました。大谷さんのような大学中退で、いや大学に進学することができなくても社会的に成功している人は多々います。身体障害者になっても、あれだけパラ五輪で活躍している人たちもいます。「やれば出来る」とは必ずしもいえないでしょうが、「やれば(ある程度まで)出来る」というのは本当でしょう。

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私自身は、これからは「余生」と思いつつも、いろいろとやりたいこともあり、それらをやり遂げてから人生を終えたいとは思っています。そういう生き方を模索している我が身にとって、大谷さんのこの「六十歳革命』は大変参考になる本でした。

「積ん読」している本に、こういう本が多々あるのではないかと思うと、新刊書に手をつけるのはやめておくべきでしょうか。「囚人のジレンマ」ならぬ「読書「積ん読」のジレンマ」には困惑させられます。

 

では、ごきげんよう。