愛しい人の話。 | 『 棚からティラミス 』

『 棚からティラミス 』

棚からティラミスは99%の実話と、
皆さんの1%の幻想で完成されるブログです。   

誕生/尾崎豊

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運輸会社でのアルバイトは楽
しかった。
もう本名は忘れてしまったが、
クッキーというあだ名の後輩
がいた。
やんちゃな奴で、確か高校は
定時制に通っていたと思う。
失敗したパンチパーマをみん
なからからかわれながらも愛
らしい奴だった。

そのクッキーが昼食を取って
更衣室に戻ってきた。
「クッキー、どこに食べに行
ってたんや?」
お昼をどうしようか迷ってい
た僕が訊いた。
クッキーは得たとばかりに満
面の笑みでのり出してきて、
「たけうちさんっ。あそこの
カレーそばは最高っすよ。
やっぱりイッカンザクラは美
味いっす」
と言った。

聞いていた僕らは後ろにすっ
転んだ。
「アホかクッキーっ。あれは
イッカンタカドノ(一貫楼)
と書いて一貫『ロウ』と読む
んや。桜は『女』の上が『ツ』
なんじゃっ!」
同僚の活きのいい奴がクッキ
ーに喝を入れる。
さすがにクッキーも気恥ずか
しかったのか席を立った。お
茶をしてくるという。

どこの喫茶店へ行くのか、と
やっぱり僕が訊いた。
「そこの喫茶『モチャ』っす。
アイスコーヒーが美味いっす
よ」
聞いていた僕らはまた後ろに
すっ転んだ。
「アホかクッキーっ。あれは
モチャ(mocha)と書いて
『モカ』と読むんじゃっ!」
同僚の活きのいい奴が半ばヤ
ケクソに喝を入れる。

八十年代後半の運輸会社は、
そんなおバカと活きのいい
奴の集まりだった。