秋の大会は準々決勝で負け、春の甲子園大会は絶望になった。
負けはしたが、俺の胸のつかえがスーッとなくなるようなそんな大会だった。
チームもこの敗戦をきっかけに「来年の夏こそは」とみんなの目標を一つになった気がした。
しかし、チームが一つになったと思えたのはほんとその一瞬だった。
今思えばそれは単なる幻で、一瞬にすら一つになどなっていなかったのかもしれない。
そして、俺の胸のつかえがなくなるように感じたのも・・・同じだった・・・
俺は狭間にいた。
レギュラーメンバーとベンチ外の選手との狭間に。
俺達の学年は部員が30人近くいた。
この数は、他の学年の部員数と比べ多かった。
最上級生の部員が多ければそれだけレギュラーの競争率が上がる。
競争率が上がれば上がるほど自分の実力を現実的に把握する事になる。
残酷な現実は希望の光をさえぎり、やがてその希望を腐敗させる事となる。
秋の大会に負けてから、一、二週間経った頃だっただろうか。
この野球部にはグラウンドから少し離れた場所に小さい室内練習場があった。
そこに、4,5人の野球部員が毎日のように溜まるようになっていった。
監督の目が届かないその場所で。
ティーバッティングが終わればダラダラと球を拾い集める。
次の練習に取り組む事もなく談笑を始める。
室内練習場の外からは、監督のノックの打つ音と選手達の声が聞こえてくる。
談笑はグラウンドの練習が終わる頃まで続いた。
毎日のように室内練習場ではこんなだらけた練習が行われていた。
その中に・・・小泉もいた。
俺はどうすればいいのかわからなかった。
「お前が今沢のサポートをしてくれ」
新チームになった時、監督が俺に言った言葉が胸を突き刺す。
こいつらの気持ちも俺には理解できた。
いや、実は俺はこういう奴らを待ち望んでいたのかもしれない。
光がなくなった仲間を。