2025年度秋季号 その27
3月7日(土)のホメーロス研究会の様子です。今回は『イーリアス』第五歌85行目から105行目までです。
アカイアの六人の武将達の活躍の後、再びディオメーデースに語りは戻ります。Διομήδους ἀριστεία(ディオメーデースの武勇譚)と題された本歌の主題に焦点が絞られていくことになります。
ὣς οἳ μὲν πονέοντο κατὰ κρατερὴν ὑσμίνην:
Τυδεΐδην δ᾽ οὐκ ἂν γνοίης ποτέροισι μετείη
ἠὲ μετὰ Τρώεσσιν ὁμιλέοι ἦ μετ᾽ Ἀχαιοῖς.
θῦνε γὰρ ἂμ πεδίον ποταμῷ πλήθοντι ἐοικὼς
χειμάρρῳ, ὅς τ᾽ ὦκα ῥέων ἐκέδασσε γεφύρας: (5-84~8)
そのように彼らは激しい戦いに励んでいた
テューデウスの子をあなたは見分けられなかったろう、どちらにいるのか
トロイア勢の方に入り込んでいるのかアカイア勢の方にか。
というのも彼は野を突き進んでいたからだ、水嵩増した川の如くに
冬の(川の如くに)、冬の川は流れてたちまちに堤を崩す
85行目は注目すべき詩行です。
まず、この詩行
Τυδεΐ/δην ・ δ᾽ οὐκ/ἂν γνοί/ης ・ ποτέ/ροισι με/τείη
は、1.5 脚・2脚・2.5 脚と三つの漸増する語句から構成されています(KirkいうところのRising three folders です)。
そしてそれぞれの語句末には
Τυδεΐ/δην ・ δ᾽ οὐκ/ἂν γνοί/ης ・ ποτέ/ροισι με/τείη
と【η】音が配されていることに気付きます。
そして更に、その【η】音は次行(86行目)の選択肢を示す接続詞 ἠὲ、ἦ にも谺しているのを聴くことができます。
これらが相俟って縦横無尽に奮戦する様を彷彿させています。『平家物語』なら
木曾三百余騎、六千余騎が中へ駆け入り、縦様、横様、蜘蛛手、十文字にかけ割って ・・・(巻第九 木曾最期)
といった箇所であり、このような戦闘場面は戦記物の華です。
また、85行目には γνοίης と二人称が出てきています。詩人が登場人物に二人称で呼びかけることはよくあります。いわゆるアポストロフェーです。ここでは詩人が聴衆・読者を二人称で語りかけていますのでその変化形です。これもホメーロスの語りの手法のひとつであり、語りに生彩を加えています。
87行目からは河の、それも水嵩を増した洪水の比喩です。火と水は詩篇おけるに戦闘の比喩の二大題材です。力と動きを好む詩人ならではの題材です。
次回のホメーロス研究会は3月14日(土)で、『イーリアス』第五歌106行目から126行目までを予定しています。