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作画:吉田秋生 
連載:1985年~1994年 小学館「別冊少女コミック」


東西冷戦末期の時代の「病める大国(←私らの世代の中高生時代にうんざりするほど言われてたフレーズ)」アメリカの大都市・NYのマンハッタンを舞台に、麻薬・少年売春・レイプ・人身売買・人種間対立・脱税・汚職・ガンファイト・猟奇殺人(傭兵部隊が登場して後の展開)など、なんでもありの生々しい荒廃した世界において、『普遍的な人間愛』を壮大なスケールで描いた名作。

ただ、この作品、映像化されてないこともあるだろうし、連載終了から20年近く経過していることもあるだろうが、30歳以下の女性には意外と知られていないのが残念だ。連載当時は、少なくとも自分の身の周りでこの漫画を知らない女性などいなかった。

有名かどうか?は、自分にとって大した問題ではない。ただ、連載当時の頃は一般誌で「男性に読んでもらいたい少女漫画」「映画化して欲しい少女漫画」などのアンケートを取ると、毎回1位2位の常連だったくらい人気があった作品なのだ。確か男性漫画混在のアンケート企画では「あしたのジョー」「北斗の拳」などの名作と互角に渡り合って5位以内に入ったこともあると記憶している。それほどの作品が、いまだにアラフォー世代を中心に根強いファンを多く持っているとは言え、だんだん風化して忘れられようとしている事実もある。

その現象が、寂しく感じていたたまれなくなるのである。記憶では、前述の「映画化して欲しい~」のアンケートでは、この作品に投票した読者の声として『日本ではこの漫画のスケールは出せない。ハリウッドでぜひ!』というものもあったはずだ。とにかく、ただの一少女漫画として扱って欲しくない。もし興味をもたれたなら、ぜひ長編小説と思って向き合い、一字一句かみしめるように時々立ち止まっていろいろと思いを馳せながら読んで欲しい。個人的な思い入れとしては、そのくらいの漫画だと評価している。


本当は当ブログを読んでいただく方に、この作品に興味を持っていただくために、ストーリーを紹介しつつ、重要な場面では立ち止まってあれこれ述べるような手法を取りたいのだが、語りたいところが多すぎてあまりに長くなりすぎてしまう。よって、この場では本当に伝えたいところだけピックアップしていく。足りない部分はwikipediaで検索するなりして各自で把握されるか、本音を言えば「まぁ理屈はいいからとにかく読んでみなよ!絶対面白いから!」と言ったところか。


【本編の主人公アッシュ・リンクスの生い立ち】
アッシュはNY近郊の田舎町に、父の二番目の子供として産まれる。兄を産んだ母は早くに亡くなった。アッシュ自身の母親はNYからフラフラと流れてきてアッシュの父と深い仲になりアッシュを出産するも、他の男性と浮気して家族を捨てて再び他の土地に流れていった。

アッシュは幼少の頃に少年野球のチームに入る。そのチームのコーチは土地の名士として尊敬される存在だった。が、7歳の時にそのコーチにレイプされ帰宅。父は様子を見て一瞬にして全てを悟り、警察に訴えるが、コーチが土地の名士だったためまともに受け合ってもらえない。あまつさえ「自分から誘ったんじゃないのか?」とまで言われてしまう。この事件はアッシュに、権威や権力、大人全体に対する不信感を植え付けることになる。

ここで父がちょっとしたエラーを犯す。作中には確か深い心理描写はなかったと思うが、おそらく父はアッシュに、自分を捨てて他の男と去ったアッシュの美しい母の面影を見てしまのだろう。ちょっと皮肉っぽい対応をしてしまうのである。父はアッシュに「もう警察なんてあてにするな。ただし---今度犯される時はカネを要求しろ!」と、やや突き放した教えをつたえる。(もっともこの父子は作中前半で、お互い大切な存在であることをしっかり確認しあって別れる)

一年後、8歳になったアッシュはコーチにベッドに連れ込まれた何度目かの日にピストルでコーチの頭を撃ち抜いた。警察の捜査の結果、名士として尊敬を集めていたコーチの家から、恐らくはアッシュと同じようにレイプされたと思われる十代の少年たちの遺骨が山のように発見された。自らが被害者であることは証明できたが、その土地にいられなくなったアッシュは家出することになる。(もっとも異母兄グリフィンとは連絡はとっていたものと、作中からは推察できる)

NYに流れてきた幼いアッシュは、コルシカマフィア(=イタリア系移民の暴力団)財団の大物・ディノ=ゴルツィネが経営する、高級少年売春店(おもな客はアメリカの政治家や財界人)に売り飛ばされる。売り飛ばされる際にもブローカーにめちゃくちゃにレイプされ、その一部始終をフィルムに収められる。この時点でのアッシュは売春とキッズポルノ出演で暴力団に資金を提供する道具に過ぎない。

アッシュのような少年はたくさんいた。たいていは麻薬で逃げられないように管理され、数年で廃人となって死ぬ使い捨てのような存在だ。一方でこうした少年は容姿で人気が上下し、その集中度合いで値段がランク付けされる(日本の風俗店と同じような構図)髪の色・眼の色・肌の色・・・アッシュが「あばずれの母親(父の表現)」からさずかった美貌は、少年男娼たちの中でも最高ランクのものだった。

ただ客を取り続ける日常を繰り返し、座して死を待つのみという極限状況に置かれたことで、IQ180以上というアッシュの生まれ持った天才が目覚める。この辺の経緯は詳しく描かれてはいないのでゴルツィネがアッシュの頭脳のどこを見出したのかは作中ではよくわからないのだが、とにかくアッシュは男娼からのし上がり、ゴルツィネのつけた家庭教師(元ソ連人のブランカ)によって格闘術・射撃術・恐らくは軍隊の指揮能力までをも授けられる。さらに少年院で無二の親友ショータ-との出会いやブランカとの別れを経験したあと、ゴルツィネに試される意味合いもあってスラムの不良少年たちを統括するボスになる。

心の底に、大人たちの織りなす複雑で汚れた社会へのぬぐい難い不信感と、深い被害者意識を抱える一方で、無数の子分(=崇拝者)や己の才能に嫉妬して一方的なライバル意識をぶつけてくる敵(=オーサー)などに囲まれ、以前よりは緩くなったものの依然として支配者として君臨しているゴルツィネと過ごす日々。そうした中でアッシュと英二は運命的な出会いを果たす。

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