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ハンガリーの裕福な家庭で育った医学生が転地療養で訪れたイタリアでとある女性と恋愛関係になるが、2人で楽しく旅行していた最中にその彼女は亡くなる。医学生は遺体に処置を施して、苦労して故郷に連れ帰り、殉教者に用いるやり方で納棺して秘密裏に畠に埋め、毎日そこで祈りを捧げた。
その後、用事で何年か故郷を離れて帰ってみると、畠には工場が建っていた。嘆いていると、司祭が訪れてきて、工場を建てる前に畠からローマ時代のアドラータという名前の殉教者の棺が発見されたと告げられる。聖女アドラータは50年後に聖列に加えられることになった。
今は老人となった医学生はあえて真実を明かさず、聖女となった元恋人の祭壇に今日も祈りを捧げている。
というあらすじ。
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「あたしはこの事件を成り行きのままにしておきました。そして、愛は信仰に変わっていました」(窪田般彌訳『アポリネール傑作短篇集』福武文庫)という文章はここ3年の間、たとえば今日のような日にふと思い出されます。
アイドルは宗教、などと仄かな皮肉を込めた常套句は今でも目にすることがありますが、宗教における信仰とは詰まるところ個人個人の営為であって、他人がとやかく言う仕儀ではない。僕自身は無宗教ですが、信仰の対象は心の中にいくつか存在します。
松野莉奈さんは多くの人の心の中でそのような対象になっていると思われます。22歳の誕生日おめでとう。上の老医学生のごとく、今日も空に向かって祈りを捧げることとします。
