…CDより音質の良い「ハイレゾリューション(ハイレゾ)と呼ばれる音楽が普及する一方、懐かしのレコードの人気もじわりと上がっている。両極に位置するようなデジタルの進歩とアナログの復権が同時に進むのか…
なーんて導入部だけでツッコミどころ満載、日頃から録音音楽に接することのあまりない人向けにわかりやすく書くにはこうするしかないんでしょうけどね。
記事のなかで、ハイレゾとCDを比べて、その優位性を「デジタルカメラの画素数」に例え、ハイレゾの情報量がCDの3~6.5倍であるから「より高い音域まで収録し、音の強弱もより繊細に再現できる」のだそうです。
具体的な数値はここだけ(レコードの生産数の推移も挙げていますが、それは音質論には関係なし)、あとは例によって主観のオンパレード。ハイレゾは「CDより音に伸びがある」、レコードは「デジタルと比べて音に温かみがある」云々。
音が良い、とはどういうことなのか。この手の記事を書くにはこの問いに対して明確かつ具体的な思想を持たないといけない。もちろん音の良さは周波数特性やビット数、S/N比などの数値だけで測れるものじゃない(これらがすべて無意味だとは言いませんが)、そんなことは録音音楽に関わる人、これを趣味として長年付き合ってきた人は十分承知しています。
僕個人の意見としては、良い音とは、人間の感受可能性により訴求する音、というしかない。ヒトの聴覚は何Hz以上/以下の周波数は聴くことができないそうですが、一方でモンゴルのホーミーなど、明らかにその範囲を超える周波数が聴く人に影響を与えているという報告もある。東京新聞の記者が「懐かしの」と形容するアナログレコードには、デジタルのフォーマットを超越した周波数帯の音が入ってますから、レコードとハイレゾやCDを単純には比較できません。自然界には様々な周波数帯の音が存在しています。人間も動物ですから本能というものがある。危険を素早く正確にキャッチしなければならない。ヒトの聴覚がそういう条件下で発達(あるいは退化?)してきた以上、音の情報がどのように脳内で処理されるのか、その辺りのことが本当の意味で解明されるまでは、軽はずみに音の良し悪しということを断定することはできないと思います。
ハイレゾもCDもデジタルですから、僕は同じものだと見ています。ハイレゾ化で情報量が増えたとはいえ無制限ではない。制約というか一定の枠内にあるという点ではCDと同じ、アナログとは品物が違う。僕はデジタルは箱庭、アナログは庭園だと思っています。自然の景観を切り取って人工的に美しく配置し直したのが庭園、それをさらに切り詰めてコンパクトにしたものが箱庭、そんなイメージですね。審美眼の持ちようによってはそれぞれに見どころがある。箱庭と庭園と実際の自然景観と、それぞれを比べて優劣をつけても意味ないでしょ。アナログレコードだって、世の中にアナログしかなかったときの録音と、すべてデジタルで作って媒体だけアナログレコードとしたものでは全然違いますから、一概にアナログなら何でも音質がいいとも言えない。録音された音楽の音質を議論するには参照すべき項目が多岐にわたりますので、なかなか一筋縄では行きません。
何かと分が悪いCDだって最近のは音は十分いいですよ。今日は廉価盤のこれでフィガロの結婚を聴きました。
オリジナルは英デッカ、録音は1956年だったかな? フィガロ初のステレオレコードでした。このCDの箱にはモノラルと書いてありますが(LP当時モノラル盤ももちろん存在しました)、聴いてみるとステレオでした。エリッヒ・クライバー指揮ウィーン響、シエピのフィガロにギューデンのスザンナ。特に弦が繊細で美しい、長年の愛聴盤です。
同じセットにコシもドンジョも魔笛も入っています。これで2Kですよ。全部オリジナルLPで揃えるにはこの100倍出さないと買えません、CDエラい(笑)。で、続けてコシを聴こうとしたら、トラックの焼き順を間違えたと見えて、3曲めの三重唱が序曲の前に入ってました。ヒドイ。これだからCDは……まあ安かったからいいか。

