楽しみは・・・


 「お父さん、おかえり!」

 そんな温かな声が普段通りの日常を感じさせる家に帰宅すると響いてきた。小1の長男、年中の次男、そして2歳の長女と妻が毎日のように笑顔で迎えてくれた。

しかし、2022年12月のあの日までの話でした・・・

 

 朝の日課、妻は出勤の準備、子供たちは小学校、幼稚園、保育園へ向かう準備を進めている。私も仕事へ向かおうと準備を進める中、「2階がめっちゃ散らかってるで!」と妻に伝えた。私にとっては何気ないと思っていたこのようなやり取りが妻にとっては日々の辛いものだったことに私は気付いていなかったのです。

「はい・・・」と元気のない声と曇った表情が、妻との最後のやり取りでした。

 

 寒い外仕事の中、「もうすぐS(長男)の誕生日だなぁ。今年はどんな誕生日にしようかなぁ。今日、H(妻)と相談するかなぁ」「H(次男)とS(長女)は何を喜んで話してくれるかなぁ」「今日は寒いから、帰りH(妻)に・・・」などと楽しみに仕事に励んでいた。家族との時間が私の唯一の楽しみでした(後々に分かるのですがこの“唯一”という が中々の曲者だったのです)。

 

 

 「おわったー、片付けて帰ろう!」

17時を過ぎ、辺りは真っ暗になっていました。車に乗り込み帰途につきました。「ただいま~」と挨拶しても返事がない。

不安そうな顔で現れたのは、なんと父。「誰も帰ってこうへんねん」

「???」私は混乱し、状況を理解できません。「そのうち帰ってくるでしょ。みんなで買い物にでも行ったかな?」と思いながらも、嫌な予感がして、小学校に電話をかけてみました。
「1年生のSの父ですが、帰りましたよね?」
「はい。Sくんならお母さんが“しばらく休ませます”と言って連れて帰りましたよ。」
電話を切り、部屋を見渡すと、妻の荷物がかなり無くなっている。頭の中がからっぽになった。その後、何時間外をさまよっただろうか。歩いてて車にひかれそうになったことと、2人の女子高生を車でひきそうになったこと以外は、全くといって良いほどほとんど記憶にない。気が付いたのは翌日の昼過ぎ布団の中でした。

思い出のフラッシュバックとともに、後悔と自責の念が次々と脳裏を占領し泣き続け、何もしないまま過ぎた3日間

残ったのは後悔と先への不安と絶望・・・そして、未だに脳裏に焼き付いて離れない妻の最後に見た表情と姿でした。