お金は知っている 大幅賃上げは企業の社会的責任だ! 賃金増えないと家計消費が停滞、内需不振に

日本は、8%台のインフレ率に悩まされている米欧とは対照的に、物価の値上がり幅は2%台にとどまっている。日本企業は需要不振のために、エネルギーや食糧価格が上昇する中での円安の進行に伴うコスト高を、販売価格に転嫁できないためだ。
それでも、企業の財務状況をみると、唯一V字型回復を果たしている項目がある。企業が得た利益のうち、使わずにため込んだカネである利益剰余金(内部留保)である。この剰余金と、従業員のために支出したカネ、さらに日本国民全体の所得の増加額を比較したのが本グラフである。
具体的には、財務省が実施する法人企業統計中の金融・保険業を除く業種を対象に、アベノミクスが本格的に始まった2013年度以降の利益剰余金、従業員への給与、賞与及び福利厚生費の年間合計について、それぞれ前年比増減額を算出した。それらを名目国内総生産(GDP)の前年度比増減額と引き合わせた。
利益剰余金は資本金と同じく「株主資本」を構成するが、22年3月末では資本金の5・7倍で、10年前の2・8倍から大きく膨張している。元はといえば、米国流株主資本主義に傾倒した小泉純一郎政権時代の02年7月の会社法施行以来の傾向だ。
凡庸な経営者は、「株主資本が増えました」と株主総会で説明できる。グローバル化した大企業経営者にとってみれば、「株主価値」を高めるよう要求する世界の投資家向けに、成長分野を伸ばすための企業買収の準備金だと言い訳できる。
だが、日本国内がそうしたカネをため込むだけの企業だらけになってしまうと、GDPに代表される国家全体の経済が成り立たなくなる。市場経済はカネが設備投資や技術開発に回らないとダイナミズムが失われる。賃金が増えないとGDPの6割を占める家計消費が停滞し、内需不振に陥るのだ。
経団連のトップといえば、かつては財界総本山として君臨し、国家全体の利益を論じたものだが、今やその影もない。
グラフをよく見よう。アベノミクスはそれまでの超円高を是正し、輸出を増やし、企業収益を好転させた。GDPもプラスに転じた。だが、GDPよりも賃金よりも、はるかに大幅に増えたのは利益剰余金である。企業が手元に留め置いたカネが翌年度以降に国内向け設備投資に振り向けられるなら問題はないのだが、多くは海外での企業買収など対外投資に回ってきた。
政府のほうは消費税の大型増税と緊縮財政を続け、GDPは18年度から失速した揚げ句、新型コロナウイルス禍で深く沈んだ。21年度はGDPが若干改善したが、大きくリバウンドしたのは例によって利益剰余金である。
繰り返す。資本主義ではカネが余ることは株式など金融経済が潤うことになるが、カネが実体経済に回らないと国民全体が貧しくなる。企業の社会的使命を自覚する高収益企業の経営者なら、まずは大幅賃上げを先行させるべきではないか。(産経新聞特別記者・田村秀男)