維新の会に教えたい!ベーシックインカムの要点



次期参議院選挙で、日本維新の会が、国民に無条件で一定の額を支給するベーシックインカムを公約に取り上げるという。筆者は長年ベーシックインカムを推している。率直に言って、すぐに導入の機運が盛り上がるとは思えないが、政策として公に議論されるのは良いことだ。


  ベーシックインカムの誤解を解こう


維新の会には、ぜひ政策としてのベーシックインカムの長所を正しく理解した議論をお願いしたい。話題性だけで取り上げて、不適切な反論に怯むようではベーシックインカムに対して「贔屓の引き倒し」になりかねない。

以下、維新の会に知っておいてほしい「ベーシックインカムの要点」を3つ取り上げる。


(1)一律給付が良く、お金持ちにあげても問題はない

ベーシックインカムに対する直感的な反論で、最も典型的なものは「お金持ちにもお金をあげるのはおかしい」というものだ。例えば、現金の給付には所得制限をつけるべきだと言う。しかし、所得制限付きのベーシックインカムは、そもそもベーシックインカムではない。

富の再分配の効果は「差額」で見なければならない。セーフティーネットとして一律の現金給付を行っておいて、お金持ちからは税金をたくさん取ればいい。給付と納税の差額が再分配の効果になる。課税が公平であれば、制度全体として公平になる。

給付を調整し、さらに税金についても調整するシステムは大変複雑であり、コストや手間が余計に掛かる。加えて、政府や自治体といった「お上」に余計な裁量を持たせることになる。

例えば自治体が、支給対象者の所得や資産を調べて、受給資格があるかどうかを判断するような仕組みだと、生活保護をあてにしていてもそのお金をもらえないかもしれない。セーフティーネットとして不安定だし、所得や資産の調査等に手間とコストが掛かる。

ベーシックインカムは、必ずもらうことができる給付なので、生活の予定が立てやすい。また、恥ずかしい思いをしなくても受け取ることができる点も優れている。自治体の窓口で意地悪をされて、生活保護がもらえないような事態はないのだ。

自治体の職員だって、本当は「水際作戦」のような意地悪にはかかわりたくないだろう。

ついでに言うと、使い道に対して、「お上」が指図をする「○○クーポン」(「○○」には「教育」とか、「食糧」とか)ではなく、自由を尊重する現金給付なのもベーシックインカムのいい点だ。「Go To何々」にあったようなお節介や、業界単位の不公平性、政治家と業界の癒着のような醜態とは無縁だ。

選挙向けには、「お金持ちからは、たっぷり税金を取るので大丈夫です! ベーシックインカムで格差を解消しましょう」と言うといい。「格差」は日本でも政治的なテーマになるはずだ。これまで、その解消に向けた具体的な政策手段の提言が乏しかったが、ベーシックインカムの端的な具体性は格差解消を訴える際の大きな武器になるはずだ。


(2)財源は必ずあるので、オタオタしないこと!

ベーシックインカムに対する問題点の指摘としてよくあるのは「巨額の財源を要するので現実性がない」というものだ。この指摘に対する反論の準備も重要だ。

確かにベーシックインカムを本格的に導入するには巨額の財源を必要とする。国民1人当たりに対して1カ月1万円のベーシックインカムを支給するためには、年間15兆円の財源が必要だ。これが5万円なら75兆円、7万円なら105兆円の財源が必要となる。

こうした「巨額の数字」にたじろいで、財政支出の無駄を排除して財源を作ると言ってみたり(かつての「事業仕訳」がしょぼかったことを想起させる)、既存の社会保障の組み換えを早々に主張して国民を不安に陥れたりするのは(年金をなくすといきなり言われたら不安な国民が多かろう)、議論の仕方が愚かだ。

実は、慌てるには及ばない。「ベーシックインカムの財源は心配ありません」と、まずはゆったりと言うといい。

なぜなら、必要があれば課税すれば良いからだ。

しかもその課税の負担能力は、お金を追加で配っているわけだから、必ず存在する。

選挙向けには、「財源が不足したら、課税すればいいので財源はまったく問題はありません。お金を追加で配っているので、その負担能力は必ずあります。もちろん、お金持ちにたくさん課税します」といった説明でどうか。

簡単な思考実験をしてみよう。仮にひと月7万円のベーシックインカムを支給するとしよう。これに対して所得の少ない国民50%に対してひと月4万円分を増税し、所得の多い国民50%に対して10万円を増税するとどうなるだろうか。(4+10)÷2=7だから、増税額とベーシックインカム支給額は同額で差し引きゼロだ。そして、実質的な効果として、高所得者から低所得者に対して毎月3万円が移転されることになる。


  資産にも課税、マイナンバーともひもづけ


なお、思うに増税は「所得」に対してだけでなく「資産」に対しても行うことが妥当だ。

先日、金融所得への課税について考えている時に以下のような事例に気がついた。100億円持っていてこれをほぼゼロ金利の普通預金に置いているだけの「お金持ちA」と、90億円持っていてこれを投資に回して1年間に10億円稼いだ「お金持ちB」がいるとしよう。

現状では、お金持ちBの金融所得10億円に対して2億円強の課税があり、お金持ちAの資産にはほとんど課税されないが、「リスクを取って投資して収益を得た」Bに対してだけ罰則的な課税があるのは何かおかしい。

お金を遊ばせているお金持ちAよりも、Bの方が多く課税されるというのは、納得性が乏しいではないか。金融資産に不動産等の実物資産を含めて、資産を時価評価して広く課税の対象とすることが望ましい。

経済格差への対策としても、資産への課税強化が良い。

そして、将来はマイナンバーと金融口座をひもづけして、ベーシックインカムの支給と課税との「差額」を清算するといい。

いわゆる「負の所得税」(やや正式には現在「給付付き税額控除」という何とも冴えない言葉で呼ばれている)と実施要領は同じだ。実は、ベーシックインカムの効果は基本的に負の所得税と同じだ。負の所得税の所得捕捉が完全なケースがベーシックインカムだと思うといい。しかも、ベーシックインカムの方が仕組みは簡単だ。

ところで、先日筆者はマイナンバーカードを申請した。申請自体はスマートフォンで簡単にできた。しかし、待つこと約2カ月、やっと受け取ることができるという連絡が来た。だが、今度は「区役所に受け取りに来い」という。そこで区役所に行くと、担当者の対応は親切だったが、窓口に合計4回呼び出されて、かれこれ1時間近くを要した。何と効率の悪いことか。

昨今話題のワクチン接種の状況を見ても、わが国の行政の非効率性は残念だ。日本がもはや「先進国」と呼べないことを実感する。成長している「新興国」でもないので、「元先進国」とでも名乗るといいのだろうか。

(3)ベーシックインカムは徐々に導入することが可能

既存の社会保障を、ベーシックインカムに置き換えていくことは、行政の効率性の観点からも、望ましいことだろう。しかし、それを一気に行う必要もないことを知っておきたい。

ベーシックインカムは、小さなサイズから徐々に始めることもできる仕組みなのだ。いきなりすべてを保障するセーフティーネットを作ろうとする必要はない。

例えば、維新の会の本拠地とも言える大阪府で、一人1万円からベーシックインカムを支給するようなことが、府内の課税さえ独自に可能なら実現できるはずだ。引越しによる「タダもらい」を防ぐためには、「大阪ベーシックインカム」は、例えば「府内に転居して2年目から支給する」とでもすればよかろう。

もちろん、全国一律にできる方が好ましいことは言うまでもないし、大きな社会的セーフティーネットと所得の移転について一気に合意ができれば、それを実行することも難しくはない。生活保護や雇用保険は比較的短期間に移行できるだろうし、年金もベーシックインカムを導入しながら徐々に縮小する形で時間を掛けた移行が可能なはずだ。

なお、医療保険(わが国では健康保険)に関しては、医療に関する情報の非対称性を考えると、「ベーシックインカム+民間の医療保険」への置き換えはやらないほうがいい。国全体が外資系の保険会社のカモにされる危険もある。アメリカ風の医療制度を望む国民は少ないはずだ。

ともかく、社会的な合意が形成されさえすれば、ベーシックインカムはその範囲で比較的簡単に実現できる制度なのである。そしてベーシックインカムの大きな長所の1つは、行政が効率化できることだ。生活保護にしても雇用保険にしても年金にしても、多くの人員を要し手間がかかりコストがかかっている。これらをベーシックインカムに置き換えることで行政のコストは劇的に削減できる。


  選挙向けには「行政を効率化しよう」がわかりやすい


選挙向けには「ベーシックインカムを導入して、行政を効率化しましょう」だろうか。

「ベーシックインカムで、公務員をリストラしましょう」とまで言うと、政治家の発言としては言いすぎになるかも知れない。

付け加えると、ベーシックインカムは、それそのものではなくとも「ベーシックインカム的」な制度を導入することで、少しずつ達成に向かうこともできる。

例えば、国民年金(基礎年金)の保険料を全額国庫負担にする政策は相対的な貧困層にとって恩恵が大きい「ベーシックインカム的」な政策だろう。若い非正規労働者などは喜ぶのではないか。将来の無年金者を減らすこともできる。

「一律平等に恩恵が及んで、相対的貧困者の負担を軽くする政策」は「ベーシックインカム的」だと言える。

政策の評価軸として「ベーシックインカム的であるか否か?」は有効な視点だ。

ベーシックインカムは、格差問題に対する最終兵器であると同時に、「議論に強い政策」だ。日本維新の会が、有益な議論をしてくれることに期待したい。