経済快説 日本のインフレ、経済の「好循環」生まない 正しい政策は「金融緩和」と「セーフティーネット強化」
インフレの足音が聞こえる。ただし、米国をはじめとする海外で聞こえる足音と、長年のデフレと停滞を経験してきた日本で聞こえている足音ではかなり大きさがちがう。
昨年12月に対前年比の消費者物価上昇率が7%に達した米国では、玄関を開けて土足で居間に踏み込んできたにぎやかな客の足音だ。一方、日本の場合、足音は聞こえていても客はまだ玄関の外にいる。しかし、扉を開けて入って来ることは確実だ。
日本の昨年12月末の消費者物価数の対前年比上昇率は0・5%にすぎない。しかし、昨春の携帯料金値下げの影響が剥落する今春以降、消費者物価の上昇率はざっと1・5%程度底上げされるはずだ。消費者物価を川下とすると、川上に当たる企業物価指数は昨年末の段階で対前年比8・5%も上昇している。
この物価上昇の主な原因は輸入物価の上昇だ。昨年12月の輸入物価の上昇率は対前年比で41・9%にも及んでいる。原油をはじめとするエネルギー・資源価格の上昇に加え、円安が効いている。
政府と日銀は物価上昇率「2%」の目標を長年掲げてきた。今後、日本にもインフレが来ることで、経済の好循環につながるのだろうか。具体的には、インフレ率が上昇しても、それを凌駕(りょうが)する賃金の上昇が起こり、賃金上昇が需要につながって、経済成長を後押しするような流れになるか。
残念ながら、今回のインフレはそのような「好循環」をもたらすものではなさそうだ。
企業の立場で考えてみよう。原材料費は上昇しているけれども、製品価格はそれほどには上げられない。だとすると、利益を確保するためには、賃金を上げることは難しい。むしろ、抑制したいくらいだ。ならば、正社員の採用や賃上げを抑えて、非正規労働力で凌(しの)ごうとする思考が「経営者にとっては」自然だ。
日本経済全体としては、削減できないコストの上昇を凌いだ上で、生産性を上げて賃上げと投資の増加を実現して、需要が物価上昇を後押しするような好循環に持ち込まなければならない。
ここでやってはいけないのは、「悪いインフレ」を止めるために、日本も金融引き締めに転じて円高にしようとする政策だ。公務員や「雇用と所得が安定したサラリーマン」(「連合」の主要顧客だ)には円高・金利高が一時的にいいかもしれないが、投資の停滞と非正規労働者へのしわ寄せが起こる。
輸入資源価格のようなコントロールの利かないコスト要因に関わるインフレと、需要が強いことで起こるインフレとを区別することが重要だ。
今後に来るであろうインフレに対する正しい処方箋は、金融緩和政策の維持と、経済弱者に対するセーフティーネットの強化である。金融引き締めや緊縮財政ではない。 (経済評論家・山崎元)