ベーシックインカムについて②

〜コロナ禍の経済政策〜



今回も、井上智洋氏によるシリーズものです。

ベーシックインカムについての詳しい話は、次の③話からになりますね。

まあ、気長にお付き合い下さい。



【「特別定額給付金」】


人々の生活を安定させる為に、そして不況の長期化を食い止める為に、国民全員に毎月10万円を給付するべきだと、昨日は言いました。


しかし現実には、2020年4月に成立した第一次補正予算に「特別定額給付金」が盛り込まれ、一度だけ10万円が一律給付されるに留まった。

 

これではとても、額が足りない。



【海外の給付金】


アメリカでは、既に3回の現金給付がバイデン大統領によって決定されている。


給付額は、1回目が約13万円、2回目が7万円、3回目が15万円で、合計約35万円と、大胆なばら撒きを行っているのは確かで、日本も見習うべきだろう。



【ターゲットを絞った支援の難しさ】


しかし、日本は個別給付金へと舵を切った。


例えば、困窮する学生に20万円を給付する、「学生支援緊急給付金」が手当され、他にも、ひとり親世帯に5万円を給付する「ひとり親世帯臨時特別給付金」が盛り込まれた。


これらの個別給付金では、政府が想定する困窮者しか救済されない為、必ず救済の網から漏れてしまう人が出て来る。

実際に、困窮するフリーターへの支援は未だに無いし、歩合給を敷かれている、タクシー運転手のような職業でも、もちろん、支援は無い。


全ての困窮者を漏らさず救済しようとするならば、国民全員に給付するしかない。 


これは、「お金持ちにまで給付する必要はない!」という反論があり得るが、後で取る際に、まとめて取ればいい話だ。

 


【法人の救済について】


法人が事業の存続を図る為に必要なのは、コールドスリープである。

つまり、政府の自粛要請によっていったん経済活動を止めるのであれば、自粛要請解除後に素早く元に戻れるように、事業体の活動を保存しておく必要があるのだ。


事業者が潰れて締まったら、自粛要請解除後に消費者が財やサービスを買う意欲があって、需要側の意欲が整ったとしても、財やサービスを売る供給側の状態が整わず、元の経済活動を復活させる事は出来ない。


潰れる事業者があっても放っておけばいい。

淘汰されるに任せた方がいい、という見解もあり得るだろう。

確かに、それが基本的な経済の原則だ。


しかし、国民の生活や国益が大きく損なわれる場合は、そうした原則の例外とすべきだろう。

ましてや、政府自らが自粛要請をしているならば、尚更である。


コロナ危機とは、殆ど誰も想定していなかった危機なのだから、危機に備えて資金を十分プールしておくべきだったなどと批判するのは、筋違いだろう。



【現状の法人支援制度の問題点】



具体的にコールドスリープは、どのようになされるべきか。


それを完全な形で実施するのであれば、毎月の固定費を国が全額負担する事が理想だ。


固定費はおよそ、「人件費」と「家賃」からなっている。


人件費の方は元々、「雇用調整助成金」という制度があった。

会社が社員を休ませた時、休業手当として普段の給与の6割は最低でも支給する事になっており、雇用調整助成金は、この手当を政府が支援する制度だ。

だが、助成金の額は、当初1日当たりの上限が8330円で、かなりの差額分を会社が負担しなければならなかった。

2020年6月にようやく、この上限が15000円に増額された。

加えて雇用調整助成金の申請はかなり大変でしかもなかなか審査に通らなかった。

2020年4月の時点で、問い合わせが20万件ほど、申請が2500件ほどあったが、結果的に通ったのは、300件だった。

申請の相談を受ける社会保険労務士が忙殺され、全ての依頼に応じきれないという問題も発生した。

雇用調整助成金を管轄している厚生労働省も、国民の不満に応えて手続きを簡略化しようとしていたが、そもそも何故、最初に制度を複雑に作ってしまったのか、という事が問われるべきだろう。


「制度を可能な限り、シンプルにすべき」

この原則は、ベーシックインカムの議論全てを貫く大原則である。


また、問題は、事業者の方にもあった。

出勤の記録などをちゃんと帳簿につけていないため、雇用調整助成金が申請出来ないケースもあったと云う。

出勤しているのに、出勤していないものとして帳簿を偽造し、雇用調整助成金を不正受給する行為も一部で横行した。


「家賃」に関しては、当初何の支援もなかったのだが、第二次補正予算案に「家賃支援給付金」が盛り込まれた。

これは単純化して言えば、家賃半年分の3分の2相当を国が給付するというものだ。

正確には、月額賃料が75万円(企業の場合)以下であれば、3分の2相当、75万円を越える場合は、超過分の3分の1相当+50万円を給付、と云う必要以上に複雑な仕様となっている。

また、条件も付されており、「単月で前年同月比50%減少」か「連続する3ヶ月の合計で前年同期比30%減少」のいずれかに当てはまる場合となっている。



【法人向けの支援制度を、いかに整えるべきか】


何故条件付きの支援制度が問題かと言うと、どうしても条件をクリアする為に不正を働く人が出て来てしまうし、条件をクリアしているかを判断する為の審査に、時間とコストが掛かってしまうからだ。


また、支援は事業者の規模に応じて行わないと十分な効果が得られないのだが、その規模をどのようにして測るか、と云う問題もある。


現在行われている「持続化給付金」も「飲食店に支払われる協力金」も、同じ問題を抱えている。

「果たしてこの金額は適正なのか?」と。


残念ながら、今のコロナ危機については、これまでの政策の延長上で適宜足りないものを充実させていくしかないだろう。


しかし今後起こりうる第2、第3の感染症や、未曾有の大災害に備えて、今から企業に対する支援制度を整えておく事は出来る。

危機が起こってからでは、対応が遅くなるからだ。


例えば、従業員の数に比例させて、『従業員数✖15万円』を一律であらゆる企業に無条件に給付する、などの案が考えられる。


日本全体の従業員数は約4000万なので総額約6兆円になるが、特別定額給付金の13兆円と比べても少ないくらいだ。

今回のコロナ危機では、数回実施しても良かったのではないか。

勿論、地域を限定すれば、もっと少ない額で済む。


この制度では、従業員数で事業者の規模を測ると共に、実体の無い法人を、従業員という実体のあるものに落し込んでいる。

何を持って従業員と見なすかは簡単ではないが、雇用保険・労災保険・健康保険・厚生年金、これらに加入しているかどうかが、1つの判断基準になりうるだろう。

(派遣の2重登録はさせません。)


もちろん、これで全てが賄えるとは限りません。

しかし、こうしたベーシックインカム的な事業者向けの救済の枠組みがあれば、国も事業者もかなり助かるでしょう。


苦境に陥った事業者をピンポイントで支援するのは難しい。

しかし事業者向けのベーシックインカム的制度が導入されれば、さらなる支援を必要とする事業者は限られて来るので、支援を狙い撃ち出来る点も見過ごせないのです。