日本人は知らない…なぜか日本の「物価」が上がらない「意外すぎるワケ」 日銀ではどうすることもでき | 時事刻々

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日本人は知らない…なぜか日本の「物価」が上がらない「意外すぎるワケ」 日銀ではどうすることもできない

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日銀黒田総裁「事実上の敗北宣言」

4月末、日銀の定例金融政策決定会合で公表された「展望レポート」は市場に衝撃を与えた。そこには「'23年度の物価見通しは1%にとどまる可能性がある」という旨の見解が記されていた。

'13年の就任以来、日銀の黒田東彦総裁はデフレからの脱却と「2%の物価目標」を掲げ、その達成のために、様々なリスクを抱えながら異次元の金融緩和を継続してきた。


だが、そこまでしても総裁任期が満了する'23年4月までの達成は不可能であると認めざるを得なかったということは、事実上の「敗北宣言」と言えるだろう。

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なぜ、日本の物価は、金融政策によって上昇しないのか。

その理由は過去の数字を見ると明らかになる。まず、着目すべきは日本のインフレ率(消費者物価指数)の推移だ。

インフレが起きにくい国

日本中の景気が過熱したバブル期(1986年〜'89年)においても、年平均のインフレ率は0・6%に過ぎず、平時にインフレ率が2%を超えたのは'85年が最後である。

つまり、この国には好況時でもインフレが起きにくい「構造的な問題」があるということだ。

これは、米国と日本の物価上昇率の違いを見るとより顕著になる。たとえば、'16年8月における日米の物価上昇率(対前年同月)を比較してみよう。

まず、「財(モノ)全体」の物価上昇率だ。

意外にもテレビ、電話機器や玩具、婦人洋服といった品目は日本より米国のほうがデフレになっている。結果、モノ全体の物価上昇率は、日本のマイナス1・2%に対し、米国はマイナス2・2%と、後者が下回っている。

しかしながら、「モノ全体」とあわせてレストランでの外食代や家賃、大学の学費などの「サービス全体」も加えた物価上昇率を見ると、状況は逆転する。

この物価上昇率では、米国はプラス2・3%だが日本はプラス0・2%しかない。

つまり、日本においては、サービス全体の物価上昇率が著しく低いのだ。

スマホ料金「値下げ」のインパクト

実際、この間のサービス物価の上昇率は米国が3%なのに対し、日本はわずか0・2%だ。これには外食料金や家賃の影響もあるが、最も大きいのは政府による価格統制の影響だ。

特に重要なのは、上下水道料・保育所保育料・介護料・大学授業料・病院サービスなどで、日本ではこれらの領域における政府の価格統制が著しく強い(同期間における上下水道料の上昇率は米国が3・7%、日本が0・4%。保育所保育料が米国が2・7%、日本がマイナス0・8%)。

この結果、日本のサービス全体の物価上昇率は極めて低い水準に留まっているのだ。

こうした政府の価格統制こそ、前述した「構造的な問題」の正体であり、これを解消しない限り金融政策で太刀打ちはできないのだ。価格統制というと、読者諸氏の記憶に新しいのは、菅義偉首相の要請によって、携帯電話の大手キャリアが'21年3月から通信料の大幅な値下げをおこなったことだろう。

この値下げによって、消費者物価全体が前年比で1%程度低下するという推計もある。皮肉にも、政府の施策によって、日銀は「止めの一撃」を食らった格好だ。