【新型コロナ】「外食産業の声」発足、家賃減免を求める「支払いモラトリアム法」提言 | 時事刻々

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【新型コロナ】「外食産業の声」発足、家賃減免を求める「支払いモラトリアム法」提言

竹野愛理
会見に臨む株式会社DDホールディングス取締役CCOの稲本健一氏(左)と、EGGS'N THINGS JAPAN株式会社代表取締役で元参議院議員の松田公太氏(右)

4月16日、全国に緊急事態宣言が発令され、休業や営業時間の短縮を行う飲食店が増加。店舗家賃などの固定費が支払えず、泣く泣く廃業するケースも決して珍しいことではなくなってしまった。

そんな苦しい外食業界の現状を変えるべく、立ち上がった人たちがいる。全国の飲食店経営者たちが集い、外食業界の現状と改善を訴える「外食産業の声」委員会だ。4月21日にはYouTube Live、Twitterでのオンライン会見を実施。会場では株式会社DDホールディングス取締役CCOの稲本健一氏、EGGS'N THINGS JAPAN株式会社代表取締役で元参議院議員の松田公太氏などが登壇。また、Web会議ツール「Zoom」を活用して、全国から15名の飲食店経営者がオンラインで参加した。

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「何よりもスピード感が大切」と語る稲本氏

稲本氏、外食業界の惨状語る「非常に深い闇に陥っている」

記者会見ではまず、外食業界が今どのような状況にあるかを稲本氏が解説した。

「1月ぐらいからこの4月まで、新型コロナの渦に巻き込まれてたくさんの産業が本当に大変な状況に陥っています。特に外食産業は非常に深い闇の中にいます。4月7日に緊急事態宣言が7都府県に発令、16日からは全国に拡大し、一気に全国の飲食店の皆さんが困る状態となってしまいました。政府からは給付金や助成金などといった支援も行われていますが、まだまだ足りません。金額もそうですが、何よりもスピードが足りない状態です。4月末には本当に倒産、廃業してしまうお店がたくさんあります。潰れてしまう前に何とかしなくてはいけない」

これに加え、松田氏もまた「新型コロナウイルスは本当に怖くて、政府が緊急事態宣言を全国に発令したことはとても正しい」とした上で、業界の悲痛な叫びを訴えた。

「『お店は開いてもいいけど、お客さんを呼んではいけない』という状況がずっと続いています。そんな中では我々は生き延びることができないんです。本来、休業を求めるのであれば、補償とセットでなくちゃいけない。そうしないとこの26兆円規模、1100万人の方々が働く外食産業がなくなってしまいます」

こうした外食業界の危機に立ち向かうべく設立された「外食産業の声」委員会。さまざまな取り組みをする予定だという同会の第一歩が、「家賃支払いモラトリアム法」の提言であるという。

「家賃支払いモラトリアム法」の骨子について説明する松田氏

業界を救う一手としての「家賃支払いモラトリアム法」

4月17日に発表された国土交通省の支援策では、不動産オーナーがテナントの家賃減免・猶予に応じた場合、税金や社会保険料の納付が猶予されるようになっている。飲食店経営者が不動産オーナーに対して家賃交渉をしやすい環境が作られつつあるが、これだけでは不十分だと松田氏は主張する。

「新型コロナの影響は間違いなく1年は残る。3か月の家賃猶予があったとしても、うちの会社のように90%以上売上が下がっているような店舗は生き残っていけません」

また、猶予するかどうかという交渉の主導権は不動産オーナー側にある上、個人店などは特に、家賃の減免をどう交渉したらいいかわからない人も多いのが実情だ。そこで松田氏は、「家賃支払いモラトリアム法」を提言。以下の3点を骨子として政府に働きかけていくという。

・不動産オーナーが飲食店からの交渉に応じることを義務化 ・さらに、家賃の減免交渉に応じてもらうことを義務化
・不動産オーナーが銀行借り入れの問題等で減免も猶予も難しい場合は、政府系の金融機関からテナントに変わって不動産オーナーに家賃を振り込んでもらう(家賃の肩代わりをしてもらう)

こうした法律ができることで生き残れる飲食店が増えると、松田氏は強調する。

「政府系金融機関に融資をお願いしている飲食店経営者もたくさんいます。しかし、審査がいつ通るのか、お金がいつ引き出せるのかわからないのがほとんどで、場合によっては6月まで融資されない可能性もある。でも、大変なのは今で、なんとか今を生き残っても5月が限界。だから早急にこの法案を実現していただきたいんです。この苦難を乗り越えるために、ご理解とご支援を賜りたいと思っています」

『鮨西むら』オーナーの西村文輝氏

全国の飲食店経営者からリアルな声。業界の窮状を訴える

松田氏の提言を踏まえ、稲本氏は「今回の案を含め、スピードをもって何らかの施策を重ねていかなくてはいけない。この現状をより皆さんにリアルにお伝えしたい」とコメントし、会場にいる『鮨西むら』の西村文輝氏、串カツ田中ホールディングスの貫 啓二氏、そしてZoomで参加している経営者達の声を聞いた。

■早々に対策を練らなければ「このままでは5月には廃業」
たくさんの経営者の声の中で、最も多かったのが「このままでは廃業してしまう」という悲痛な声。緊急事態宣言が出てから店を休業にしているという『鮨西むら』の西村氏は、「正直言って5月まで持つかどうか。早急にこの『家賃支払いモラトリアム法』を何とかしていただければと思って参加しました」とコメント。

さらに串カツ田中ホールディングスの貫氏も、自社のフランチャイズ店舗や取引先について言及。

「フランチャイズは中小企業が多いこともあって、家賃が本当に来月払えるかなというところまで追い込まれています。それに、外食産業は仕入れの業者さんや生産者さんとも繋がっている。この連鎖倒産は止まらないんじゃないかと恐怖を感じているところです」

都内の商業施設を中心に多数の飲食店を出店している株式会社トランジットジェネラルオフィス代表取締役社長の中村貞裕氏もまた、「非常に先の見えない不安に飲まれているのが現状です。闇の中にいる感じで、僕らの大切な従業員の安全と雇用の確保のために何とか歯を食いしばって頑張っている状態」と訴えた。

串カツ田中ホールディングスの貫氏は、食材の卸業者や生産者などの経営状態についても危機感を感じていた

■全国緊急事態宣言を受け、地方への被害も甚大に
全国に緊急事態宣言が広がっている現在では、地方でも大きな影響が出ている。各自治体の支援や被害の状況について、全国の経営者よりさまざまな意見が寄せられた。2月にいち早く緊急事態宣言が発令された北海道の惨状を訴えたのは、株式会社ラフダイニング代表取締役の大坪友樹氏。

「中心地であるすすきのは壊滅状態。不安でいっぱいです。北海道は特に外国人観光客を誘致し、彼らに頼ってきたエリアでもあります。終息したとしても、短期間で外国人観光客が帰ってきて、街の明かりが戻ってくる可能性は非常に少ない。でも、潰れてからでは遅い。各店がすべきことももちろんたくさんありますが、家賃モラトリアム法には賛成です。私たちは北海道で飲食業として生きていく。また以前のように、居酒屋を通して皆様に最高のおもてなしができるようになることを切に望んでいます」

同じく観光地として栄える沖縄について、同県で飲食店を複数経営する株式会社みたのクリエイト代表取締役社長CEO・田野治樹氏が言及。

「うちは5月8日がデッドライン。これを越えると本当に倒産しかねない。今のままでは雇用が守れないので、雇用を守るためにも家賃を補償してもらいたいです。うちが生き残るかどうかの前に、雇用を守らないと、観光客が戻ってきたときにも飲食店がない状態になってしまいます」

福岡を中心に『焼とりの八兵衛』などを展開する株式会社hachibei crew代表取締役・八島且典氏は「福岡市は市長が休業・時短要請に応じた店舗の賃料を8割負担すると発表していて、かなり楽にはなっている」としつつも、現状に対しての不安を漏らした。

「やっぱり精神的な圧迫はありますよね。それに相手は見えない敵である新型コロナなので、街は何が何だかわからず混乱している状況が続いています。一日も早く新型コロナの被害が終わってくれないと、この混乱や苦しみは続いていくのかなと思います」

「Zoom」を活用して参加した株式会社hachibei crewの八島且典氏

■より声を届けるべく、行動を起こす企業も
現状を訴える声だけでなく、積極的に行動を起こしている企業からもコメントがあった。カフェ・カンパニー株式会社代表取締役社長・楠本修二郎氏もまた、売上が立たない状況のため、西村康稔経済再生担当大臣と話すなどして、家賃と返済の減免を政府に訴えているという。

「松田さんが提案しているモラトリアム法に対しても全面的に賛成したいです。ぜひ今回を機に、政府に飲食業界の声を直接伝えられるようなネットワークになることを強く期待しています。早急に資金提供が円滑にできる仕組みを作らないといけないと思うので、皆で声を上げて引き続きやっていきたいところです」

さらに株式会社ワンダーテーブル代表取締役社長の秋元巳智雄氏も、総理官邸や都民ファーストの会に掛け合っていると話す。

「まず3月20日に総理官邸に行って、現状のしんどいところを含めていろんな話をしました。政府は雇用調整助成金の拡大などをやってくれていますが、今までの皆さんのお話の通り、やはり即効性のあるものではなく、直近の賃料や社員の給料を補償できるわけではないんですよね。しかも今、自主的に休業している人も多いので何とかしなければということで、4月8日には有志の経営者40社と一緒に小池都知事、そして都民ファーストの会の皆さんに会いに行って、いろんな支払いを一度差し止めにできないか、賃料の支援をしてくれないかという話をしました」

「Zoom」を活用して参加したカフェ・カンパニー株式会社の楠本修二郎氏

この闇が晴れるまで闘う。そのための発信を続ける

たくさんの飲食店経営者の声が直接届けられた今回の記者会見。これらを踏まえて、最後に稲本氏は「この闇がずっと続くとは思っていない」と語る。

「この闇が晴れて、少しでも晴れ間が見えたときにどう立ち上がるかを、このYoutubeチャンネルを使ってどんどん発信していきたい。現時点で倒産件数は実際公表されているものよりも相当多いものになっていると思います。倒産した会社やなくなった店は二度と戻りません。だからこそ、働く人が多いこの飲食業界を、何とかして守りたい」

同委員会では今回の家賃支払いモラトリアム法をはじめ、さまざまな提言を行っていくつもりだという。さらに公式のYouTubeチャンネルでは、提言のほかにも定期的に飲食店経営者に役立つ情報も配信される予定だ。新型コロナ、そして飲食業界衰退の危機に立ち向かう彼らの声に、今後も耳を傾けていきたい。

■「外食産業の声」委員会のYoutubeチャンネルはこちら