離島防衛の解答なるか 開発進む「島しょ防衛高速滑空弾」 目指すは離島のその先も…? | 時事刻々

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今日は、「離島防衛の解答なるか 開発進む「島しょ防衛高速滑空弾」 目指すは離島のその先も…?」です。
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離島防衛の解答なるか 開発進む「島しょ防衛高速滑空弾」 目指すは離島のその先も…?

稲葉義泰(軍事ライター)

離島防衛の課題のひとつは、一度敵に上陸されると近づくことすら困難になる点ですが、文字通り「近づけないなら、遠くから撃てばいいじゃない」を実現する「島しょ防衛高速滑空弾」は、防衛装備庁が開発を進める新装備です。

離島防衛が抱える問題点を解決

 2019年11月12日(火)から13日(水)にかけ都内ホテルにて、日本が研究や開発を進める最新の防衛装備や技術などについて展示する「防衛装備庁技術シンポジウム」が開催されました。その会場で行われたオーラルセッション(口頭発表)において、特に大きな注目を集めたのが、将来的に陸上自衛隊への配備が予定されている新装備「島しょ防衛用高速滑空弾」です。

【画像】距離感がおかしくなる? 沖縄本島以西あたりと本州を重ねると

「防衛装備庁技術シンポジウム2019」の資料より、島しょ防衛高速滑空弾の概要(画像:防衛装備庁)。

 現在、東シナ海における海洋進出を強める中国に対抗するべく、日本は尖閣諸島を含めた九州および沖縄本島の南西部に点在する離島を、いかにして防衛するかという課題に直面しています。

 なかでも、問題となるのは離島間の「距離」です。たとえば、自衛隊の駐屯地や基地が整備されている沖縄本島から宮古島までの距離はおよそ300km、石垣島まではおよそ400km、そして尖閣諸島まではおよそ430kmも離れています。距離が離れていれば当然、部隊の移動に時間もかかり、どこかの国が離島に侵攻してきた場合の素早い対処が難しくなってしまいます。

 さらに、距離が離れていると、自衛隊が保有する既存の火砲では敵の陣地が射程範囲外になってしまうという問題も浮上してきます。

島しょ防衛用高速滑空弾が示す「解答」

 たとえば、陸上自衛隊が装備する主力火砲である155㎜りゅう弾砲FH-70の射程は約30kmで、これでは離島間の射撃は不可能です。また、海上自衛隊の艦艇や航空自衛隊の戦闘機が艦載砲や誘導弾等で攻撃をするにしても、目標となる離島にある程度、接近する必要があるため、敵が地対空ミサイルや地対艦ミサイルで武装していた場合には被害をこうむる可能性が高くなってしまいます。

陸上自衛隊の155㎜りゅう弾砲FH-70。射程は約30km(画像:陸上自衛隊)。

 そこで、「離島間の射撃が可能な射程を持ち、安全な距離から敵をピンポイントで確実に攻撃できる装備」が求められた結果、生み出されたのが、冒頭でふれた「島しょ防衛用高速滑空弾」です。

 島しょ防衛用高速滑空弾は、車両搭載型の発射装置からブースターによって発射され、一定の高度に到達すると弾頭部分が分離し、超音速での滑空(グライダーのようにエンジンなど推進機関を用いないで飛翔すること)を開始、測位衛星や慣性航法装置(誘導装置)を使って現在位置を確認しながら目標上空へ到達すると、急降下して敵の陣地などをピンポイントで攻撃するという装備です。この装備の特徴として、すでに述べた離島間の射撃が可能な長大な射程のほかにも、「高高度を超音速、かつある程度機動しながら飛翔するため迎撃が困難」な点や、「離島で発生した事態に素早く対応できる」点なども挙げられます。

本命はブロック2 目指すは離島防衛の先…?

 島しょ防衛用高速滑空弾はその開発に関して、既存の技術を活用する早期装備型のブロック1(2025年度から配備)と、最新技術を活用して能力を大きく向上させた性能向上型のブロック2(2025年度から開発開始)という、2段構えの態勢をとることが決定しています。ブロック1は、とりあえず早期にこうした装備を配備して、高まる離島防衛の必要性に対応しようというもので、ブロック2では弾頭の形状やその姿勢制御に関して最新の技術を活用し、射程や飛翔速度を大きく向上させることを目指すこととなっています。つまり、島しょ防衛用高速滑空弾の本命はブロック2ということです。

12式地対艦誘導弾。射程は約200kmと見られているが、離島間射撃が可能な島しょ防衛用高速滑空弾ブロック2ではそれ以上の射程が期待できる(画像:陸上自衛隊)。

 さらに、将来的には移動する目標を攻撃出来るように、弾頭部に誘導用のセンサーを搭載することも検討されています。これが実現すれば、前述した長射程化と相まって、洋上を移動する艦艇や、敵が発射しようとしている弾道ミサイルの移動式発射装置などを、日本本土や島しょ部からピンポイントで攻撃できるようになるでしょう。