テスラや日産、EV蓄電・放電で効率利用 再エネ拡大や災害対応に貢献

排ガスを出さない環境性能が強調されてきた電気自動車(EV)だが、蓄電・放電により、エネルギーを効率利用できるという利点への注目度が増している。米EVメーカーのテスラは、来春に日本で家庭用蓄電池を発売する。EVとの間で電気をやり取りし、太陽光など再生可能エネルギー(再エネ)の活用や、夜間電力の利用を促す。11月には、家庭用太陽光発電の高額買い取り制度の期限切れが出始めるため、売電するよりも自分の家庭で消費するニーズが高まることが背景にある。将来的には、化石燃料の発電抑制に貢献できそうだ。
◆家庭向け蓄電池99万円
テスラの日本法人であるテスラモーターズジャパン(東京)は10月、来春から家庭用蓄電池「パワーウォール」を販売すると発表した。蓄電容量は13.5キロワット時で、価格は本体と付属機器を合わせて99万円(税別)。家庭用の設備で太陽光発電した電気をためて、家電やEVなどに供給することで、電気の自給自足を促すという。同社の浅倉真司カントリーマネージャーは「パワーウォールの投入で、持続可能なエネルギーへの移行を加速させたい」と話す。
テスラは、リチウムイオン電池の「バッテリーパック」の組み合わせによって、車載用電池や家庭用蓄電池にする技術を確立。バッテリーパックは同じ工程で量産するため、価格競争力がある製品を供給できる。
再エネは、日照状況や風の状況などにより、発電量が変わる。電気は需要量と供給量が一致しないと安定しないという特性を持つため、電力需要に対する再エネ発電量が大きくなると、発電を抑制する必要も生じる。EVや蓄電池の普及が進めば需要が増え、発電量を押し上げられそうだ。一方、発電量が少ないときはEVから放電することで、電力系統が安定する。その結果、EVによって、多くの再エネを活用することができる。
また、EVにためた電気を電気使用の多い時間帯に使うことで、電力会社から買う電気を少なくすることもできる。消費者から見ると省エネにつながる。電力会社は需要に合わせて発電所を建設するため、化石燃料の発電所の必要性を低下させられる。
◆台風停電時に50台派遣
一方、日産自動車のEV「リーフ」は、変換器と接続することで、家庭の電気をEVにためたり、EVから家庭内の電子機器に給電することができる。これにより、夜間の安い電気を蓄電したり、太陽光発電した電気を売電せずに消費したりすることも可能だ。
オフィスビルなどの電気の基本料金は、過去1年間に必要とした電気の大きさの最大値で決まるため、EVからの放電によって、年間の基本料金を下げることもできる。日産はNTT西日本との協業で、EVによって夏場のピーク時の電力消費量を7.5%削減する効果を確認したという。
9月に発生した台風15号が、千葉県を中心に大規模な範囲で停電を引き起こした際、日産は、“走る蓄電池”として50台以上のEVを派遣。避難所などでの非常用電源として活躍した。同社は、これまでも11の地方自治体と災害時に連携する協定を締結しているが、「台風15号以降も、非常に多くの自治体からお声かけいただき、話し合いを進めている」(関係者)という。
EVの普及が進むと車載用電池の2次利用も課題となる。EVで使用されたリチウムイオン電池は、車の使用状況により再利用できる容量を維持している。EVの環境価値を高めるためには、中古バッテリーを蓄電池などに加工し直すことで、そのまま廃棄することもなく、新たな電池の作成も抑制することが必要だ。
日産は、今後電池の2次利用の市場が拡大すると見込む。今年9月には、住友商事と共同出資するフォーアールエナジー(横浜市)がリーフの中古バッテリーを活用した蓄電池を神奈川県内のセブン-イレブン10店舗に設置する実証実験を開始した。
EVは、再エネの拡大や化石燃料削減、製品リサイクルなどの面でも、社会における環境負荷低減の可能性を秘めている。(出口賢太郎)