テクノロジーを国会へ 舩後靖彦参院議員の政治活動を支える「最新技術」 | 時事刻々

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今日は、「テクノロジーを国会へ 靖彦参院議員の政治活動を支える「最新技術」」です。
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テクノロジーを国会へ 靖彦参院議員の政治活動を支える「最新技術」

玉居子泰子
令和元年最初の猛暑日を都心で記録した8月1日、車いすでワゴン車から出た舩後を囲み、「押すな!」など罵声が飛び交うなか、一斉にシャッターが切られた(撮影/品田裕美)
 れいわ新選組から初当選した2人の重度身体障害者の国会議が注目を集めている。筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の舩後靖彦議員と脳性まひの障害を持つ木村英子議員だ。彼らの存在は、どんな変化を社会に巻き起こすのか。フリーライターの玉居子泰子氏が迫った。
都内で24年の自宅療養をつづけるALS患者佐々木公一(72)は、「舩後さんが特定枠で立候補したと聞いたときから当選すると思っていた。これまで障害者が抱えてきた様々な問題が大きく変わる予感がする」と話す。佐々木も20年前に気管切開をして人工呼吸器をつけた。筆者は1年かけて佐々木の生活を追い、今年6月にルポ『世界はまた彩りを取りもどす』(ひとなる書房)を上梓した。車いすでどこにでも出かけ、多忙で豊かな日々を生きるALS患者がいることを、彼を通じて知った。 

 舩後靖彦(ふなごやすひこ)(61)もそうした患者の一人だ。発症後、自殺を考えるほどの絶望を乗り越えてからは、持ち前の明るさで同じ患者へのサポートに役割を見いだした。看護・介護事業所の副社長を務め、自立生活を送り、かつてプロを目指したギターで音楽活動を続け、CDも出している。
8月中旬、千葉にある舩後の自宅を訪ねた。この日は事業所の夏祭りに向けたバンドの練習日。舩後は、湘南工科大学の教授・水谷光が開発したシステムを使い、口元のセンサーを噛めばコードを鳴らせる特殊なギターを使っている。舩後が作詞を担当したオリジナルの4曲を、ギター、ベース、キーボードとボーカルを入れて2時間演奏を続けた。息の合ったサウンドは心地よく、取材も忘れて聴き入った。 

「ちょっと休憩!」と仲間が水分補給し、談笑する横で、舩後は休まずマイナーコードを練習していた。「気持ちいい音楽ですね」と声をかけると、目線をこちらに移し、にこりと笑った。 

 この日も、国会でも、舩後を介助していた看護師の佐塚みさ子(58)こそ、自身が経営する看護・介護事業所「アース」の副社長に舩後を抜擢(ばってき)した人物だ。付き合いは8年弱になる。
「舩後さんを副社長にすると、当初職員から驚きの声はありました。でも彼が当事者目線で必要な介護・看護が何かを教えてくれたことで、従業員の意識は驚くほど変わり、会社は成長しました。全身麻痺でも、社会復帰をし、周囲を変えることはできる。舩後さんが国会議員に挑戦すると言うなら、私たちはサポートするだけです」 

 現在、舩後のコミュニケーション方法は、介助者による文字盤の読み取りか、センサーのチューブを噛むことでPCに文字入力をするかのどちらかだ。議員として必要な原稿は、事前に準備すれば意思は伝えられる。ただ、どうしても直接の対話には時間はかかる。 

 このハンディをテクノロジーの力で埋めようという人がいる。分身ロボットOriHime(オリヒメ)の開発者、吉藤健太朗(31)だ。目の部分にカメラを搭載した高さ20センチ余りのロボット、オリヒメは、ごく簡単な操作で手を動かしたり、発話したりできる。
「これからは、高齢者が増え、体の自由がきかない人が増えることを踏まえて、政治を考えるべき。何でも人並み以上にできる“万能感のある人”しか政治家になれないことに、私は“弱さ”を感じていました。2人の当選で、『歴史が動く』と直感しています」 

 もともと病気や入院などで動けない人の孤独を解消したいと2010年にオリヒメを作った。現在、大手企業や病院、学校施設などで、テレワークや病人や不登校児と家族友人をつなぐツールとして約500台の利用がある。 

 さらに吉藤は、ALSをはじめとする難病患者のコミュニケーション支援をしたいという思いから、透明文字盤をデジタル化した視線入力装置OriHime eye(オリヒメアイ)を開発。これを使えば、従来の意思伝達装置による文字入力より格段に速くPCに文章が書けるという。今、舩後はこの二つのテクノロジーを国会に持ち込みたいと考えている。
「舩後さんはとても熱心に練習されています。オリヒメの操作に早く慣れようと、何時間も練習をされるんです。私が『少し休みましょう』と言っても全然やめない(笑)」(吉藤) 

 今年2月には、自民党衆院議員の平将明(たいらまさあき)がオリヒメをテレワークツールとして使用することを検討していた。参議院でも導入は検討されている。 

「舩後さんが視線入力した言葉や動作指示によって、オリヒメは挙手や拍手、少し遅れますが音声での発言ができる。また、車いすの上にオリヒメをとりつけていれば、国会議事堂のあらゆる角度の風景を、舩後さんはPC画面で見ることができます。人型ロボットの存在により、周囲にも本人の人柄や意思が、伝わりやすくなります」
表情や声で意思表示が難しい重度身体障害者は、人格が見えづらい。偏った見方が広まるのは無理はないとも言える。だが、そこにテクノロジーが助け舟を出せるかもしれない。 

 国会本会議で文教科学委員担当に指名された舩後は抱負を語る。 

「81年が国際障害者年となり、05年には障害者自立支援法が生まれ、今回重度身体障害者が国会議員になった。30年前に比べ世の中は大きく変容しました。私は10年後、20年後の未来を想像して、障害者に対する偏見を教育で変えたい。幼いうちから差別意識を持たないインクルーシブな教育のありかたを提案していきたいと思っています」 

 現在日本には、約936万6千人(18年、厚生労働省推計)の障害者がいる。たとえ、今、自分が健常者であっても、いつ病に倒れるかわからない。生まれてくる子が病気や障害を持っているかもしれない。
「多様性はいつの時代にもある。変わったのは、それを受け入れる土壌が広がったということ」と吉藤は言う。 

 賛否両論、物議を醸しながらも議員は国民の意思により選ばれた「代表」だ。2人が活躍する環境を整えるための変化は国会の内外ですでに動き出している。舩後、木村の任期は6年。この先、さらにどんな変化が訪れるか。 

 舩後さん、今の思いを短歌にするなら? 長く短歌を趣味とする舩後に、取材の最後に聞くとこう返ってきた。 

「同胞(はらから)の大きな希望胸に入れ 日本変えると“押忍”の気合を!」 

(文中敬称略)(フリーライター・玉居子泰子)