「て……てめェ……」
辺りの空気が、一瞬にして、狂暴な色を帯び変貌した
怒りで瞳を血走らせた男生徒の内二人が、持っていたナイフを握り直す
夕陽に染まった体育館の裏に、明確な殺意が渦を巻きつつあった
「殺してやる…」
興奮のためか、口の端から泡を出しながら、男生徒がドスの効いた声で言った
「殺してやる…」
もう1度、繰り返した
状況は、一触即発
J少年は、ナイフで突き掛かってくる二人の男生徒の攻撃を避けながら、1人の顔面に掌打を打ち込み、もう1人の男生徒の鳩尾に蹴りを放つ
その蹴りをそのまま、掌打を打ち込んだ男生徒の首筋に振り下ろし、鳩尾を押さえてうずくまる方の顎に回し蹴りを放つ
二人の男生徒は、そのまま地面に倒れ込むと昏倒した
「くッ、糞ッ」
振り返るとさっきから野太い声で怒鳴っていた男生徒が、いきなり蹴りを放ってきた
「うわッ」
片手で、それを受け流す
J少年は、再び蹴りを放ってきた野太い声の男生徒の懐に入り込み、両方の掌を相手の胸に当てると体内に溜めてあった気を一気に放出した
ビクンと1回男生徒の身体が波打ったかと思うと、そのまま後ろに倒れ、動かなくなる
これもまた、発勁の為せる技であった
「ひッ……ひィ……」
残った女生徒が、落ちていたナイフを拾い、J少年に向かって構えた
瞬く間に仲間を倒された恐怖からか、瞳は大きく見開かれ、ナイフを持つ手も小刻みに震えている
J少年は、その女生徒の方にゆっくり近づくと、手を振り上げた
「ひィッ」
振り上げた手をひょいと軽く振る
いつ奪い取ったのか、女生徒の手に握られていたナイフが、J少年の手の中に収まっていた
「女を殴る趣味はないんでね。見逃してやるよ」
そう言うと、J少年はナイフを折りたたんで、脇の草むらに放り込んだ
ついでに服についた泥でも払ってやろうかと思って手を伸ばしたところ、
「ひッ――」
女生徒は、短い悲鳴をあげると、脱兎の如く走り出して、あっという間に体育館の角を曲がって消えてしまった
「………」